ひとり戦場に行く君へ
平成×年8月8日
今日は、戦場に行く軍人が街を出る日。
港町だったわたしの所からは、小さな船で行くみたいで、
それはまるで昔見た映画のワンシーンだった。
だけどそんなことを考える前に、わたしの思考は停止する。
何故、何故、何故、と。
疑問ばかりが頭に浮かんできた。
だって、軍人になる少年たちの中には、
昨日よりさらに髪を切った君がいたから。
変わらない笑顔で手を振っていたから。
わたしはそれに対して手を振り返すことも出来ず、
ただ黙って見ているしかできなかった。
しばらくして笛が鳴り、少年たちが船に乗る時間になった。
人混みの間からやっと見える君は、今までの笑顔が嘘のように、真剣な顔でとても綺麗な敬礼をしていた。
そんな真剣な顔を、出来る人だったっけ。
出来ることならここから飛び出して、今すぐ問い詰めたかった。
何故そこにいるのか。その船が、どこにいく船なのか、
本当に分かっているのかと。