魔王と王女の物語 【短編集】
その前にーー


コハクはアマンダの魚の下半身を前から後ろから見て触りまくる。

いやらしい気持ちなどラスにしかもう感じないが触られる側は別。


「ちょ、ちょっと…まだ…?」


「ふうん、哺乳類の魚ってとこか。ほんと珍しいな」


「もういいでしょ!?」


「まあいいか、分かったよ」


コハクは手を離してある程度アマンダから離れた。

詠唱破棄ーー

魔法使いは本来は陣を描き、祝詞を唱える。

だがコハクはその準備段階を全ての省き、人差し指をすうっとアマンダに向けた。


「怖いわ…」


「一応教えといてやるけど、お前は足を得る代わりに…声を失う」


「え…!?」


「王子がそれでもお前を愛したなら、その足はもう永遠にお前のもの。けど…」


「王子が…私を愛してくれなかったら…?」


コハクは赤い目を細めて意地悪くにやりと笑った。


「お前は海の泡となって消える。つまり死ぬってことだな」


ーー命がけだ。

本来呪いとはそういうもの。

あの王子に愛されなければこの命は消えてしまう…

それでもアマンダはコハクをきっと見据えた。


「いいわ、やって」


「王子がお前を愛したら声は戻る。な、いいことばっかだろ?」


…そうでもないが、アマンダは曖昧に頷いて会話はこれで終わりだとばかりに目を閉じた。


「はいはいっと」


呪いーー久々に使う。

あまりに代償が大きいため滅多に使うことはなく、また成功率は非常に低いが、コハクは絶対的な自信を持っていた。


「よっし」


金色の光がアマンダを包み込む。

あまりに眩しく目を閉じているとーーふと足に違和感を覚えて目を開けた。


そこにはーー


「人の…足…!」


求め続けた憧れの足ーー
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