魔王と王女の物語 【短編集】
魔物は減らない。

強い魔物は山道や街の近くに現れて人を食う。
大抵は森の奥深くに潜んでいるが、街道を一歩外れると襲われる可能性は格段に上がる。


「魔物を見つけたら倒してく。手伝えよ」


「んなめんどくせえことするかよ。第一オレを見て襲いに来ると思うか?」


魔界にも轟く魔王の名。

本人は無防備に馬上であくびをしているが、実際まだ何者かの気配は感じても襲って来る気配はない。


「お前…魔法使ったのか?」


「使ってねえし。チビから滅多やたらに魔法は使うなって言われてんだよ


実生活でもコハクはほぼ魔法を使うことなく1日を送ることも多い。

但し魔法使いの性というか、魔術書や禁書とよばれる危険な本の研究に没頭することも多く、そこはラスに怒られてもやめるつもりはない。


「小さな子たちを置いて来ても大丈夫なのか?」


「何言ってんだお前。あいつらはオレとチビのベビーだぞ。めちゃ強に決まってんだろ」


実際ルゥとリィは剣の稽古もすればコハクから魔法の指南も受けている。

頭も良く、ただ万年反抗期なのかコハクには突っかかってくることが多い。


「あの子たちも不死なのか?」


「さあな、調べたこともねえな」


肝心なことを後手に回しているのは子供が先に死ぬのが怖いからかーー

そんなことを考えていると、そのリロイの顔にぴんときたコハクは馬を寄せてリロイの足を蹴った。


「おめーに同情なんかされたくねえな」


「痛いだろ、離れろっ」


「ふたりとも、喧嘩?」


馬車の窓を開けて顔を出したラスにぎくっとなったふたりは愛想笑いを浮かべて同時に手を振った。


「いやいやいやいや喧嘩なんてするわけねえだろ?オレたち大人だもん!」


「そう?ふふ、楽しいねー」


心地よい風が馬車の中に吹き込む。

長い金の髪が風にさらわれて揺れると、リロイとコハクは揃って頰を緩めてかつて旅をした時を思い出していた。


魔王を倒すための旅ーー

あんな結末になるとは誰も思っていなかったけれど。
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