悪魔の囁きは溺愛の始まり
兄の冷たい視線に顔を伏せたが、頭上から聞こえてきたのは説教だ。

年の離れた兄は小さな母のようだった。

面倒も見てくれるし、甘やかしてもくれる。分からない事は教えてくれるし、頭の上がらない存在だ。

だから口煩いのは昔からだ。


「一花、付き合ってる彼氏がいるそうだな。」

「えっ?うん。」

「どこの誰かは聞かない。うちの社員ではないだろ?」

「うん。」


またその話か。

耳にタコが出来るぐらいに聞かされてきた。


「俺は渡部を信頼してるし、『社内恋愛は止めておけ』とも言わない。」

「うん。」

「だが親父は違う。一花も理解してるだろ?」

「うん、だから渡部さんにはハッキリと断ったし、それに彼氏もいる。」

兄が顔を伏せている私の頭を撫でた。

その優しさに顔を上げた。


「彼氏、ちゃんと紹介しろ。それとも紹介できないような男か?」

「………聞いてみる。ほら、付き合い始めたのが最近だし。」


家族に紹介するなんて早い気もする。
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