悪魔の囁きは溺愛の始まり
デスクの携帯が着信を知らせる。

『一花、そろそろ帰れるか?』


「青山、誰?」


渡部さんの低い声に視線を向けた。きっと、いや間違いなく勘違いしている。


「兄です。『帰らないのか?』って。」

「副社長か。そろそろ帰るか?お嬢様。」


明らかに雰囲気が変わった渡部さんが茶化してくる。

無視して時計を見れば―――


「もう22時か。」

「明日の資料は?」

「出来てます。明後日の会議の準備が出来てなくて。」

「なら帰るぞ。副社長が待ってるだろ?」


渡部さんが片付けを始めるのを確認すると、私も帰る準備を始めた。

フロアーには私達しかいない。


「副社長も忙しいんだな。」

「ですね。」

「お嬢様も頑張って働いてるよな。」

「仕事ですから。それに私はデザインが好きですから。」

「ふ~ん、仕事はずっと続けるのか?」


渡部さんの言葉に大きく頷いた。

今の仕事が好きだし、やっと設計も出来るようになってきた。


「続けますよ。」


即答した言葉に迷いはなかった筈なのに………。
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