悪魔の囁きは溺愛の始まり
兄の心が泣いている。

唇を噛み締める兄は幸せ?

好きな人を手放す必要はあった?


「お兄ちゃんは幸せじゃないの?」

「………そうでもない。葉月は本当に俺を好きでいてくれる。」

「後悔してるの?」

「いや。ただ一花が羨ましいだけだ。好きな男と幸せになれそうで。」


兄が背を向けて車に向かって歩いていく。


「一花、親父に紹介しろよ。反対はしないだろうから。」

「…………わかった。」

「一花、おやすみ。」

「おやすみ。」


ゆっくりと走り出す兄の車を見送った。

そっと手を繋がれ、隣に立つ蒼大さんを見上げれば目と目が合う。


「一花、俺はどんな事があろうと手放したりしない。後悔だけはしたくないから。」


兄は『後悔してない』と言っていた。


「今度、挨拶に行く。予定を聞いといてくれ。」

「………わかった。」


蒼大さんに頷いた。

私に会いたくて、家まで追い掛けてきてくれた蒼大さんに応えたいと強く思った。
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