悪魔の囁きは溺愛の始まり
「一花!」


呼ばれた名前を無視して、大きく息を吐き出しながらエレベーターに凭れ掛かった。

ロビーへと降下していくエレベーターの中で目を閉じた。

心臓が嫌な音を立てている。

溢れ落ちそうになる涙を上を向いて堪える。こんな場所で泣きたくはない。

途中で乗り込んできたマリンの社員にお辞儀をしながら、ひたすら涙を堪えた。

受付に名札を返し、急ぎ足でマリン本社を出ていく。

唇を噛み締めて、ひたすら自社へと急いで向かった。

絶対に泣きたくはない。

騙された自分が情けない。

私へ囁く甘い言葉、私への優し過ぎる行動、本気で私を好きでいてくれてると………自惚れていただけなのかもしれない。

『蒼大さん』

あの女性も普通に呼んでいた。

親密な関係を漂わせていた二人の姿が脳裏に甦る。

彼女を抱く蒼大さんが頭から離れない。

『社長がお呼びです』

この言葉から彼女は社長秘書だろう。

きっと社長も2人の関係を知っていたかもしれない。
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