悪魔の囁きは溺愛の始まり
「一花、話がある。」


吐き出される低い声。

再会した日の蒼大さんの囁きが甦る。


「岡崎部長、今日は遠慮してください。俺も話があるので。」


聞こえたのは隣に立つ渡部さんの声だ。怒りが込められた低い声が吐き出されていた。

張り積めた空気が私達を包み込んだ。


「悪いが、付き合ってるのは俺だ。今日は遠慮して貰えないか?」

「青山は話したくないと思いますが?」


二人の会話が聞こえる。


「俺と一花の問題だ。」

「俺も関係があるので。」

「関係?」


蒼大さんの眉間に皺が寄っていく。

私は二人の空気に耐えきれず、歩き始めようとしたが腕を掴まれてしまった。

掴まれた腕の先を辿れば、蒼大さんが私の腕を掴まえている。


「一花、送る。」

「いい。」

「送る。」


強引に腕を引かれるが、渡部さんも黙って見ているだけのつもりはないらしい。


「『他にも女がいる』って聞いたが?」

「………。」


蒼大さんが足を止めて振り返った。その瞳は冷たく渡部さんを突き刺していた。
< 140 / 200 >

この作品をシェア

pagetop