悪魔の囁きは溺愛の始まり
社長のデスクの前で立ち止まり、見下ろすように睨んだ。

社長である父もじっと私を見据えている。


「聞きました。次のプロジェクトでは渡部さんの部下を外されると。」

「ああ、問題があるのか?」

「何故ですか?」

「仕事の都合だ。」

「仕事の?」

「そうだ。」


私の態度にも怯まない社長を更に睨んだ。

気にする様子を見せない社長に腹が立つ。


「前に流れた噂のせいだと言えばいいでしょ。」

「噂?ああ、あの噂か。」

「知らない振りしても無駄です。」

「別に関係ない。」


社長が平然と嘘をついている。

それが嫌になる。


「私は渡部さんの部下としてずっと働きたいです。」

「別に渡部以外にも優秀な社員はいる。」

「私は渡部さんがいい。」

「それは『娘だから譲歩しろ』と言ってるのか?」


社長の言葉に唇を噛み締めた。

『娘だから譲歩しろ?』


「そんな事は言ってません。」


腸が煮えくり返る思いだった。
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