悪魔の囁きは溺愛の始まり
「一花、座って。」

「うん。」


頷きソファーへと腰掛ければ、蒼大さんもキッチンから私の隣へ腰掛けた。

近づいた距離にドキリとし、鼓動が僅かに速まった。


「はい、一花。」


注がれたのは記憶を塗り替えたいと言われたお酒だ。そのお酒を受け取り、蒼大さんも自分のグラスに注いだ。

その姿をじっと見つめていれば、グラスを持ち上げる仕草に私も同じようにグラスを手に持った。


「一花、お疲れさま。」

「お疲れさま。」


蒼大さんが私を見つめている。


「先に飲んで?」

「うん。」


一口だけ口に含み飲んだ。リンゴ味のお酒で凄く飲みやすいので酔いやすい。

蒼大さんがじっと見つめているので、もう一口だけ飲んでみた。

それでも動かない蒼大さんに首を傾げた。


「飲まないの?」

「飲む。一花、今日は消えないよな?」

「うん。親にも友達の家に泊まるって言ってきたし、帰る場所なんてない。」


蒼大さんがゴクリと喉を鳴らして、グラスのお酒を豪快に飲んだ。

無言のままの蒼大さんを心配げに見つめてしまった。


「一花、今日は飲んでも消えるなよ。」


切ない蒼大さんの掠れた声が胸に突き刺さる。

心から願うような声が耳に届いた。
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