悪魔の囁きは溺愛の始まり
結局、蒼大さんが片付けもしてくれた。申し訳なくなってくる。



「一花、今、ドライヤーを持ってきてやる。」


「えっ、いいよ、洗面所でしょ?」


「乾かしてやる。」


「いいよ、自分でやるから。」



これ以上は本当に申し訳ない。全力で否定してしまった。


蒼大さんの視線が突き刺さるのを感じて席を立ち上がる。



「ごめん、用意するね。」


「………。」


「蒼大さん、ドライヤーの場所とか教えてくれる?」


「ああ、こっち。」



ちょっと不機嫌な雰囲気を醸し出しているが、本当にこれ以上は甘えられない。


二人で洗面所に並び、私は髪を乾かし、蒼大さんは隣で歯みがきをしている。


蒼大さんの視線を痛いほど感じる。



「蒼大さん、見すぎなんだけど。」


「別にいいだろ。」


「………ダメじゃないけど。」



蒼大さんを見る。


髪は洗い晒しのままで普段より幼く見えるし、私服だと普段よりも若く見える。



「見すぎ。」



蒼大さんの言葉に我に返った。つい、いつもと違う蒼大さんを観察してしまっていた。



「ごめん、普段と違うから。」


「それは一花も。会社とは雰囲気が随分と違う。」



蒼大さんが私からドライヤーを奪った。
< 89 / 200 >

この作品をシェア

pagetop