お見合い結婚時々妄想
私が進藤さんの気持ちに気付いたのは、他でもない
女の勘、ただそれだけだ
そして今、2人の表情が一変したことを見ると、間違いないということだろう


「私に話しかけてどうするつもりだったんですか?」


進藤さんが言葉に詰まっていると、ハラハラしながら見ていた相川さんが口を開いた


「進藤係長、もういいでしょう。早く戻って下さい」


進藤さんは相川さんが強引に会場に戻そうとするのを振り切った


「私は、まだ部長のことを諦めきれていません」


感情的になりつつある進藤さんとは対照的に、私は意外と冷静だった
だから思わず口に出てしまった


「それで?私にどうしろと?」


進藤さんと相川さんは固まってしまった
2人とも私がこんな事を言うとは想像もしていなかったらしい
そんな2人をよそに、私は続けた


「だったら、私にそんな事を言う前に、主人を誘惑したらいいじゃないですか。あなたが手に入れたいのは主人でしょ?私にそんなこと言うのは筋違いです」
「なっ……」
「し、祥子さん……」


2人は面食らっていたけど、私はそのまま続けた


「それに、あなたが私にそんなことを言った時点で、主人はあなたのことを許さないでしょうね。仮にあなたが主人を誘惑したところで、あなたは相手にされないでしょうけど」
「……何故、そんなことが言えるんです」


進藤さんはわなわなと震えていた
それでも私はやめなかった
だって、これだけは言いたかったから


「慎一郎さんは、私の事を愛してますから」


そして、にっこり笑顔
自分がこんな事を言えるなんて思ってもみなかった
でもここで引くわけにはいかない
慎一郎さんは誰にも渡さない
私だって慎一郎さんを愛してるんだから
進藤さんは何かを言おうとしたが、私はその前に深々と頭を下げた


「初対面の方に失礼なことを申しました。申し訳ありませんでした」


その時、会場から拍手が聞こえてきた
きっと、コックス支社長の挨拶が終わったんだろう
私は頭を上げて、言葉を続けた


「もうそろそろ、主人が戻って来ると思います。それに、まだ進藤さんはお仕事中なんでしょう?早く戻らないと……」


それは本心から出た言葉だった
F社という大企業で、女性がこの若さで係長という役職に就いているのだ
それは彼女の努力の賜物だと思うから
こんなことで、立場を危うくなんてさせたくない
進藤さんは私の気持ちを察したのか、ちょっと自嘲気味に笑って頭を下げた


「こちらこそ、失礼を致しました。申し訳ありませんでした」


頭を上げた進藤さんはすっきりした顔をしていた


「皆川部長と奥様があまりにも幸せそうだったので、ちょっと妬んでしまいました。お許し下さい。おかげで吹っ切れました」


そうして微笑んでいたので、私も微笑んだ
すると、会場の入口から慎一郎さんが出てきたのが見えて、相川さんが慌てて進藤さんに戻るように言ったのだが、進藤さんは私に意外な事を言った


「祥子さん。連絡先交換してくれませんか?私、こんななので、女友達が少ないんですよ。よかったら」


多少はびっくりしたけど、それも楽しそうだったので、はいと頷いた
でも、これだけは言っておかないとな

「進藤さん、私、妄想癖があるんですけど、それでもいいですか?」
「えぇっ?」


びっくりしたみたいで、笑われてしまった


「いいですよ。なんだか楽しそう」


それから、お互いのスマホを取り出して連絡先を交換した
そうしているうちに、慎一郎さんが怪訝そうな顔をして戻ってきた

「一体何してるんだ?進藤係長、こんなところにいていいのか?」
「今から戻るところです。そんな顔をしなくても大丈夫ですよ、皆川部長。今、奥様にコテンパンにやっつけられたところですから」
「はっ?」


慎一郎さんは訳が分からないという顔をしている
相川さんは口に手をあてて、必死に笑いを堪えている


「じゃ、戻ります。祥子さん、連絡しますから」
「はい、私も。お仕事頑張って」


そうして進藤さんは会場に戻って行った


「祥子、一体進藤と何を話してたんだ?」
「何をって、お友達になったの」
「お友達!?」
「そう、お友達」
「なんでまた進藤と……」
「あら、進藤さんとお友達になったら不都合なことでもあるの?慎一郎さん」
「い、いや……それはないけど……おい相川、どうなってるんだ?」


ぷはっと吹き出した相川さんは、笑いながら言った


「見ての通り、祥子さんと進藤係長はお友達になりました」

慎一郎さんは益々訳が分からないと言わんばかりに、大きなため息をついた


「とりあえず、僕たちは帰るから。相川、お前も帰っていいぞ」
「はい。ちょっとパーティーに顔を出して帰ります。祥子さん、今日は本当にありがとうございました」


爽やかな笑顔で相川さんは頭を下げた


「こちらこそ、ありがとうございました。本当に助かりました。それから、これからも主人のことよろしくお願いします」
「いえ。タクシーまでお送りします……って、部長、睨むの止めてもらえませんか?」


えっ?と思って、慎一郎さんを見ると、相川さんを目で殺す勢いで睨んでいた


「はいはい、祥子さんと早く2人きりになりたいんですね。分かりましたよ。じゃ、祥子さん。僕はこれで」


ペコッと頭を下げて、パーティー会場へ戻って行った
やっと終わったと思って、ふぅと息を吐いた

「祥子疲れたよね。大丈夫?」


心配そうに覗き込んでる慎一郎さんに笑顔で応えた
慎一郎さんも安心したようで、帰ろうと言って、ホテルを後にした
タクシーに乗って安心したのか、すぐに寝てしまった
マンションに着いても眠たくて、慎一郎さんに抱えられるようにして、部屋に入った
ソファーに座らせてくれたけど、まだ眠気がさめなかった


「祥子、着替えないと。せっかくのドレスが皺だらけになっちゃうよ?それにお風呂入らないの?」
「お風呂……入りたい……」
「じゃ、起きないと」


ゆっくり目をあけると、慎一郎さんの優しい笑顔があった

「慎一郎さん、甘えていい?」
「ん?」


慎一郎さんの首に腕を回して、抱きついた
私の背中を慎一郎さんの手が優しく撫でる


「どうしたの?急に」
「今日、色々あったから、甘えたくなったの」
「そう。今日はありがとうね、祥子」


私は抱きついたまま、首を振った
そうしてたら、どうしても慎一郎さんが欲しくなった


「慎一郎さん、抱いて?今すぐ」
「祥子?」


慎一郎さんは体を離そうとしたけど、私は離れなかった

「お願い……慎一郎さん」
「……僕もそうしたいけど、祥子は今日疲れてるでしょ?今日はゆっくり休もう?」

私は嫌々をするように首を振った


「祥子お願いだから。じゃないと、今日の僕はめちゃくちゃに君を抱きそうだ」
「それでもいい」
「祥子?」

今度こそ、慎一郎さんは私の体を剥がした


「祥子、どうしたの?」


両手でわたしの顔を包んで、真剣な眼差しで私を見る慎一郎さん
私はこれまで溜まっていた感情が溢れてしまいそうだった


「私……」
「いいから、言っていいから。全部受け止めるから。大丈夫だよ、祥子」


涙が溢れるのと同時に、気持ちをぶちまけた


「私、パーティーなんか出たくなかった!みんなに『皆川慎一郎の妻はどんな女だ』って見られるのが分かってたから!どんな女かって、そんなの自分が一番分かってる!何の取り柄もないことぐらい分かってる!本当に嫌だった!でも慎一郎さんに頼まれたから。だから、頑張った!英語も!出席者の顔も覚えた!」
「うん、それから?」
「それと、進藤さんは……進藤さんは吹っ切れたって言ってくれたけど、またあんな人が慎一郎さんの目の前に現れるかもしれない!そんなの嫌!慎一郎さんは、慎一郎さんは……」
「うん」
「私のだもん……誰にもあげない……誰にも渡さないんだから!」


私は慎一郎さんにキスをした
慎一郎さんは私を抱えあげて、寝室へ連れて行き、ベットへ押し倒した
お互いに服を脱がせて、激しく抱き合った
慎一郎さんが私を求めているのが分かる
それをもっと実感したくて、私も慎一郎さんを求めた
その最中も慎一郎さんは


好きだ
愛してる
僕の祥子
誰にも渡さない


と何度も言ってくれた
それが幸せで、体がいくら悲鳴をあげようと、私は気を失うまで慎一郎さんを求め続けた
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