お見合い結婚時々妄想
番外編1 部長秘書、相川健次の観察日記
相川健次32歳
F社海外事業部に勤めている
皆川慎一郎という人に会ったのは、自分がまだ29才の時、彼がアメリカ支社から、本社の海外事業部次長として異動してきた時だった
33才という若さでの異例の人事
当時の部長がもうすぐ定年なので、彼がすぐに部長になると言うことは分かりきっていた
自分は海外事業部第1課に籍を置いていた
第1課から第3課まである海外事業部の各課長は、当然彼より年上だったし、自分の大ボスになる人だったから、色んな意味で興味があった
彼の着任初日
部長に連れられてやって来た皆川次長は、誰がどう見てもカッコイイと思わせる容姿をしていた
「本日付けで海外事業部に異動になった、皆川慎一郎です。よろしくお願いします」
顔もよければ、声もいい
しかも仕事が出来ると専らの評判
なんだこのパーフェクトな人間は
それが彼、皆川慎一郎の第一印象だった
彼が本社に帰って来て、ほどなく部長に昇進した
それから、皆川部長の仕事ぶりは凄かった
「アドバイスはすると言ったが、こんなことぐらいで僕の意見を聞くな。自分で判断しろ」
「ちゃんと相手方には説明したんだろうな?それじゃただの子供の使いじゃないか。情けない……もう1回行って来い」
「その件は、前にも言ったと思うが?同じ事を2度も言わせるな」
とにかく容赦なかった
それが正論だけに、誰も反論出来ない
年上の部下でさえ、同じように容赦なかった
でも厳しいだけじゃなく、成功したときはその事をちゃんと労ってくれて
「私の部下は、優秀ですから」
と堂々と言ってのけて、例えそれがほぼ部長のおかげで成功したものだとしても、部下の手柄としてくれていた
何かトラブルが起こったら、率先して自分が表に出て解決に導き
「全責任は僕がとる。思う存分やれ」
と部下を見捨てるようなことは絶対しなかった
最初は、部長のやり方について行けないと嘆いていた海外事業部の面々も、徐々に部長を慕い、ついて行くようになった
自分もその中の1人だった
そんな中俺は、 何かと皆川部長の仕事を手伝うことが多くなった
部長は、俺のことを秘書にしたいと思っているようなのだが、なかなか第1課の渋谷課長がうんと言わないらしい
でも俺は、今の状況で満足していた
そんな時だった
見合いをすると聞いたのは
だからスケジュールを調整して欲しいと言われた
でも、部長は全く乗り気じゃなく
「父から薦められてね。多分どうにもならないだろうけど」
と言っていたのだ
俺もこの人には結婚は向かないだろうと思っていたので、ああそうですかとしか思っていなかった
ところがだ
見合いをしてからの皆川部長は、明らかに何かが違っていた
スマホをチェックしているときの表情とか、突然思い出したようにふっと笑ったりだとか、本当に些細なことだか、幸せオーラを醸し出しているのだ
そうして見合いから2ヶ月たった頃、結婚が決まったから、なるべく週末は仕事を入れないでくれと言われた
だから、聞いてしまったのだ
「結婚するんですか?」
「ああ」
「誰がですか?」
「僕だけど?」
「冗談ですよね?」
「こんなこと冗談で言ってどうする?」
「いつですか?」
「4ヶ月後」
「は?」
「新婚旅行にも行きたいから、それも調整してくれ」
「……マジかよ」
思わずため口をきいてしまったが、それを回りで聞いていた海外事業部の全員が悲鳴をあげたので、かき消された
部長の結婚
それはF社では、有名タレントが結婚するよりも遥かに大きなニュースだった
自分はいつも部長と行動を共にしていたため、他の社員にもいろいろ聞かれた
特に婚約者のことを
しかし、部長の婚約者を知らないので、答えようがない
でも、婚約者と会ったであろう週明けは、すこぶる機嫌がいいので、他の社員からは、スケジュールを調整して婚約者と会わせておけと、よく言われたものだ
残業していたある日
部長は婚約者に会えない日々が続いていて、多少イライラしていた
大きな仕事が控えていたので、しょうがなかったのだが、部長の婚約者はこんなに会えない人とよく結婚を決めたもんだと、最近思うようになっていた
そんな時、部長のスマホが鳴った
席でとって話していたので、仕事の電話かと思っていたとき、いきなり誰かの大爆笑が聞こえてきた
誰だよ!ただでさえ部長はイライラしてんだから、ちょっと考えろよ!
と思って見てみると、部長が大爆笑していた
はっきり言って、衝撃的だった
あの、冷静沈着、ポーカーフェイス、鬼の皆川と言われている人がが大爆笑しているのだ
衝撃を受けているのは俺だけじゃない
残業していた海外事業部の社員達も部長に釘付けだ
後輩の麻生はコーヒーを溢しているのにも気付いていないし、渋谷課長はパソコンの画面が「っ」だらけになってるし、第1課の唯一の女性、藤川さんはつまみ食いしていたポッキーが口から落ちたのも気付いていなかった
第2課と第3課の全員もそんな感じだった
それでも部長は笑いながらも電話で話していて
「呪われるようなことは」
「安心して」
「気をつけて帰るんだよ」
「また連絡する」
とか、聞いたこともないような声で喋っている
しかもスマホを切った後も、そのスマホを見て愛おしそうに見つめている
俺達の視線に気付いた部長はいつも通りの部長に戻って
「何が言いたいんだ?君たち。僕が婚約者と話してて、笑っちゃいけないのか?」
と一気に空気を氷点下まで下げてくれた
その後の俺達は、はっきり言って仕事にならず
『婚約者の名前はショウコさんらしい』
『呪われるって何!?』
『あの部長から気をつけてと言う言葉が聞けるなんて』
と、社内メールが飛び交った
後々、この事は
鬼の皆川、大爆笑事件!
とF社に語り継がれることとなる
本人は知らないだろうけど……
F社海外事業部に勤めている
皆川慎一郎という人に会ったのは、自分がまだ29才の時、彼がアメリカ支社から、本社の海外事業部次長として異動してきた時だった
33才という若さでの異例の人事
当時の部長がもうすぐ定年なので、彼がすぐに部長になると言うことは分かりきっていた
自分は海外事業部第1課に籍を置いていた
第1課から第3課まである海外事業部の各課長は、当然彼より年上だったし、自分の大ボスになる人だったから、色んな意味で興味があった
彼の着任初日
部長に連れられてやって来た皆川次長は、誰がどう見てもカッコイイと思わせる容姿をしていた
「本日付けで海外事業部に異動になった、皆川慎一郎です。よろしくお願いします」
顔もよければ、声もいい
しかも仕事が出来ると専らの評判
なんだこのパーフェクトな人間は
それが彼、皆川慎一郎の第一印象だった
彼が本社に帰って来て、ほどなく部長に昇進した
それから、皆川部長の仕事ぶりは凄かった
「アドバイスはすると言ったが、こんなことぐらいで僕の意見を聞くな。自分で判断しろ」
「ちゃんと相手方には説明したんだろうな?それじゃただの子供の使いじゃないか。情けない……もう1回行って来い」
「その件は、前にも言ったと思うが?同じ事を2度も言わせるな」
とにかく容赦なかった
それが正論だけに、誰も反論出来ない
年上の部下でさえ、同じように容赦なかった
でも厳しいだけじゃなく、成功したときはその事をちゃんと労ってくれて
「私の部下は、優秀ですから」
と堂々と言ってのけて、例えそれがほぼ部長のおかげで成功したものだとしても、部下の手柄としてくれていた
何かトラブルが起こったら、率先して自分が表に出て解決に導き
「全責任は僕がとる。思う存分やれ」
と部下を見捨てるようなことは絶対しなかった
最初は、部長のやり方について行けないと嘆いていた海外事業部の面々も、徐々に部長を慕い、ついて行くようになった
自分もその中の1人だった
そんな中俺は、 何かと皆川部長の仕事を手伝うことが多くなった
部長は、俺のことを秘書にしたいと思っているようなのだが、なかなか第1課の渋谷課長がうんと言わないらしい
でも俺は、今の状況で満足していた
そんな時だった
見合いをすると聞いたのは
だからスケジュールを調整して欲しいと言われた
でも、部長は全く乗り気じゃなく
「父から薦められてね。多分どうにもならないだろうけど」
と言っていたのだ
俺もこの人には結婚は向かないだろうと思っていたので、ああそうですかとしか思っていなかった
ところがだ
見合いをしてからの皆川部長は、明らかに何かが違っていた
スマホをチェックしているときの表情とか、突然思い出したようにふっと笑ったりだとか、本当に些細なことだか、幸せオーラを醸し出しているのだ
そうして見合いから2ヶ月たった頃、結婚が決まったから、なるべく週末は仕事を入れないでくれと言われた
だから、聞いてしまったのだ
「結婚するんですか?」
「ああ」
「誰がですか?」
「僕だけど?」
「冗談ですよね?」
「こんなこと冗談で言ってどうする?」
「いつですか?」
「4ヶ月後」
「は?」
「新婚旅行にも行きたいから、それも調整してくれ」
「……マジかよ」
思わずため口をきいてしまったが、それを回りで聞いていた海外事業部の全員が悲鳴をあげたので、かき消された
部長の結婚
それはF社では、有名タレントが結婚するよりも遥かに大きなニュースだった
自分はいつも部長と行動を共にしていたため、他の社員にもいろいろ聞かれた
特に婚約者のことを
しかし、部長の婚約者を知らないので、答えようがない
でも、婚約者と会ったであろう週明けは、すこぶる機嫌がいいので、他の社員からは、スケジュールを調整して婚約者と会わせておけと、よく言われたものだ
残業していたある日
部長は婚約者に会えない日々が続いていて、多少イライラしていた
大きな仕事が控えていたので、しょうがなかったのだが、部長の婚約者はこんなに会えない人とよく結婚を決めたもんだと、最近思うようになっていた
そんな時、部長のスマホが鳴った
席でとって話していたので、仕事の電話かと思っていたとき、いきなり誰かの大爆笑が聞こえてきた
誰だよ!ただでさえ部長はイライラしてんだから、ちょっと考えろよ!
と思って見てみると、部長が大爆笑していた
はっきり言って、衝撃的だった
あの、冷静沈着、ポーカーフェイス、鬼の皆川と言われている人がが大爆笑しているのだ
衝撃を受けているのは俺だけじゃない
残業していた海外事業部の社員達も部長に釘付けだ
後輩の麻生はコーヒーを溢しているのにも気付いていないし、渋谷課長はパソコンの画面が「っ」だらけになってるし、第1課の唯一の女性、藤川さんはつまみ食いしていたポッキーが口から落ちたのも気付いていなかった
第2課と第3課の全員もそんな感じだった
それでも部長は笑いながらも電話で話していて
「呪われるようなことは」
「安心して」
「気をつけて帰るんだよ」
「また連絡する」
とか、聞いたこともないような声で喋っている
しかもスマホを切った後も、そのスマホを見て愛おしそうに見つめている
俺達の視線に気付いた部長はいつも通りの部長に戻って
「何が言いたいんだ?君たち。僕が婚約者と話してて、笑っちゃいけないのか?」
と一気に空気を氷点下まで下げてくれた
その後の俺達は、はっきり言って仕事にならず
『婚約者の名前はショウコさんらしい』
『呪われるって何!?』
『あの部長から気をつけてと言う言葉が聞けるなんて』
と、社内メールが飛び交った
後々、この事は
鬼の皆川、大爆笑事件!
とF社に語り継がれることとなる
本人は知らないだろうけど……