お見合い結婚時々妄想
結婚してからの部長は、とにかくご機嫌で、幸せオーラ全開だった
奥さんは料理がとても上手らしく、残業する時は大体みんな夜食を食べるのだか、部長だけはどんなに遅くなっても帰って食べていた
それを見ていた女性の藤川さんは
「やっぱり女は、男の胃袋掴むのが一番ね」
と真剣に呟いていた
自分の肩書きが、海外事業部第1課兼部長秘書になった頃、役員の中で評判が悪い三浦常務から呼ばれていた部長が帰って来るなり、俺を呼んだ
「Dインテリアの支社長就任パーティーがあるんだが、その出席者の詳しいデータをまとめてくれないか。出来るだけ早く」
「分かりました。でも、海外事業部は関係なくないですか?」
「そうなんだが……」
Dインテリアの新しい支社長、ミスターコックスは部長とは古い知り合いで、部長に会いたいと言ったらしい
それだけならよかったのだが、三浦常務は就任パーティーに部長を出席させて、尚且つ結婚したばかりの部長夫人も呼びましょうと、余計な事を言ったのだ
今では、ミスターコックスは部長夫妻に会うのを楽しみにしているから、絶対夫婦同伴で来るようにと言われたそうだ
「たしか以前、三浦常務の娘さんが部長に一目惚れしたとかで……」
「ああ、それで見合い話があったが、断ったことがある」
「それをまだ根に持ってるんですか?」
「恐らくな。僕は常務の娘の顔も知らないんだけどな」
部長はため息をついた
「何も知らない奥さんを、公の場に引き摺り出して、恥をかかせようってことですか」
「そうだろうな」
なんて男なんだ
自分の娘と会わなかったくらいで、こんな事を
「分かりました。奥さんにも分かりやすいように、資料を作ります。それと、俺も同行しますから、そのパーティー」
「ああ、頼む。悪いな」
こんなに辛そうな部長を見たのは初めてだった
それから、資料を作りはじめたのだが……
思ったより出席者が多く、結構な量の資料になった
「部長、すいません。なるべくデータをまとめて作ったんですが……」
「出席者が多いからな。かと言ってあまり雑な資料じゃ意味ないから。ありがとう。助かったよ」
「奥さんは、英語出来るんですか?」
「ああ、それなら少し前から英会話を習ってて、今では日常会話は十分に出来るようになってる。たまに、練習がてら家でも英語で話すようにしてるから、それは心配しなくてもいい」
「そんな短期間でですか?」
「凄いだろ?」
部長は得意気に笑っていた
いや、しかし……
「多分、この資料もパーティーまでには完璧に覚えると思う」
「……は?」
完璧にって、A4用紙がニ〜三十枚、軽くありますけど
「奥さん、何者ですか?」
「普通の専業主婦だよ」
「普通の専業主婦は、短期間で英会話をこなしたり、膨大な資料を完璧に覚えたりしません」
部長はニヤリと笑って答えた
「僕がどこの大学出てるか知ってるか?」
「国立H大学ですよね」
「お前落ちたって言ってたな」
「残念ながら。だからそれが……」
「妻もH大学出身だ。しかも奨学金貰って卒業したらしい」
「……は?」
「僕もつい最近、見合いの時の釣書き見てびっくりした」
「なんで、そんな人が専業主婦してるんですか?しかも最近知ったって……」
部長が言うには奥さんは、親に負担をかけたくないからと、短大に進学するつもりだったらしい
しかし、学校の先生から1つでもいいから国立大学を受けてくれと言われ、じゃあと受けたところが、家から通えるところにあったH大だったと
それがたまたま受かったらしい
受かったからには行けと、学校と母親に言われ入学
そして、やっぱり負担をかけたくないからと、奨学金をもらっていたらしい
「たまたま受けて、受かる大学じゃないですよ」
「僕もそう思う。だから先生方も薦めたんじゃないかな」
「しかも、最近知ったって何ですか?普通、釣書き見るでしょう?」
「会う前は1回会えば終りだと思ってたからな。だから興味がなかったんだ。勤務先も実家の近くのちょっとした工務店だったし。多分、母親のそばにいたかったんだろうな」
「じゃ何がどうなって結婚を?」
俺を睨む部長
いや、睨まれても……
何なんだよ一体……
「一目惚れだよ」
「……は?」
「だから、一目惚れ。何回も言わせるな」
「誰が?」
「僕が」
「誰に?」
「お前はバカか?妻以外に誰がいる?」
「マジかよ……ですか?」
部長はちょっと顔を赤くして、席を外してしまった
俺は呆然としたまま自分の席に戻り、後輩の麻生に言った
「なあ、麻生。皆川部長、奥さんに一目惚れして結婚したらしいぞ」
「は?何言ってるんですか?相川さん。そんなことあるわけないでしょ、部長に限って」
「いや、今本人から聞いたから間違いない」
「……嘘でしょ?」
「現に顔を赤くして、席を外したよ」
と、部長の席を指差した
「一目惚れ?」
「そう」
「あの皆川部長が?」
「ああ」
「俺、奥さんを尊敬します。部長を段々人間らしくしてるですから」
思わず吹き出した
本当にそうだなと思ったから
あの皆川部長に一目惚れさせたり、大爆笑させたり、ましてや、照れて顔を赤くさせるなんて、並みの女性じゃない
だったら尚更……
「恥をかかせる訳にはいかないな」
と、呟いた
部長はあれから何度か三浦常務に、奥さんを出席させないように、掛け合っているようだが、全く聞いて貰えないらしい
「会社の事に祥子を巻き込むなんて……僕は、夫失格だな。あんなに追い詰められてるのに、何もしてあげられない」
そう言って、弱音を吐いている部長を何度も見た
でも俺は、 部長夫妻には悪いが、これからは夫婦同伴でこういう場所に出ることが多くなると、思っている
皆川部長はこれからも出世するのは間違いないんだから
「そこのところは、祥子もちょっとは覚悟してたとは言ってたよ。でも、今回は……」
「三浦常務のやり方が気に入らないと?」
「それもあるが、マーケティング部の進藤も出席するらしい」
あぁ、元カノですか……
「俺が、会場で奥さんを絶対1人にはしませんから」
「……悪い、頼む」
『頼む』
この言葉を何回聞いただろう
パーティー当日は、全力で部長夫妻をフォローしようと、心に決めた
奥さんは料理がとても上手らしく、残業する時は大体みんな夜食を食べるのだか、部長だけはどんなに遅くなっても帰って食べていた
それを見ていた女性の藤川さんは
「やっぱり女は、男の胃袋掴むのが一番ね」
と真剣に呟いていた
自分の肩書きが、海外事業部第1課兼部長秘書になった頃、役員の中で評判が悪い三浦常務から呼ばれていた部長が帰って来るなり、俺を呼んだ
「Dインテリアの支社長就任パーティーがあるんだが、その出席者の詳しいデータをまとめてくれないか。出来るだけ早く」
「分かりました。でも、海外事業部は関係なくないですか?」
「そうなんだが……」
Dインテリアの新しい支社長、ミスターコックスは部長とは古い知り合いで、部長に会いたいと言ったらしい
それだけならよかったのだが、三浦常務は就任パーティーに部長を出席させて、尚且つ結婚したばかりの部長夫人も呼びましょうと、余計な事を言ったのだ
今では、ミスターコックスは部長夫妻に会うのを楽しみにしているから、絶対夫婦同伴で来るようにと言われたそうだ
「たしか以前、三浦常務の娘さんが部長に一目惚れしたとかで……」
「ああ、それで見合い話があったが、断ったことがある」
「それをまだ根に持ってるんですか?」
「恐らくな。僕は常務の娘の顔も知らないんだけどな」
部長はため息をついた
「何も知らない奥さんを、公の場に引き摺り出して、恥をかかせようってことですか」
「そうだろうな」
なんて男なんだ
自分の娘と会わなかったくらいで、こんな事を
「分かりました。奥さんにも分かりやすいように、資料を作ります。それと、俺も同行しますから、そのパーティー」
「ああ、頼む。悪いな」
こんなに辛そうな部長を見たのは初めてだった
それから、資料を作りはじめたのだが……
思ったより出席者が多く、結構な量の資料になった
「部長、すいません。なるべくデータをまとめて作ったんですが……」
「出席者が多いからな。かと言ってあまり雑な資料じゃ意味ないから。ありがとう。助かったよ」
「奥さんは、英語出来るんですか?」
「ああ、それなら少し前から英会話を習ってて、今では日常会話は十分に出来るようになってる。たまに、練習がてら家でも英語で話すようにしてるから、それは心配しなくてもいい」
「そんな短期間でですか?」
「凄いだろ?」
部長は得意気に笑っていた
いや、しかし……
「多分、この資料もパーティーまでには完璧に覚えると思う」
「……は?」
完璧にって、A4用紙がニ〜三十枚、軽くありますけど
「奥さん、何者ですか?」
「普通の専業主婦だよ」
「普通の専業主婦は、短期間で英会話をこなしたり、膨大な資料を完璧に覚えたりしません」
部長はニヤリと笑って答えた
「僕がどこの大学出てるか知ってるか?」
「国立H大学ですよね」
「お前落ちたって言ってたな」
「残念ながら。だからそれが……」
「妻もH大学出身だ。しかも奨学金貰って卒業したらしい」
「……は?」
「僕もつい最近、見合いの時の釣書き見てびっくりした」
「なんで、そんな人が専業主婦してるんですか?しかも最近知ったって……」
部長が言うには奥さんは、親に負担をかけたくないからと、短大に進学するつもりだったらしい
しかし、学校の先生から1つでもいいから国立大学を受けてくれと言われ、じゃあと受けたところが、家から通えるところにあったH大だったと
それがたまたま受かったらしい
受かったからには行けと、学校と母親に言われ入学
そして、やっぱり負担をかけたくないからと、奨学金をもらっていたらしい
「たまたま受けて、受かる大学じゃないですよ」
「僕もそう思う。だから先生方も薦めたんじゃないかな」
「しかも、最近知ったって何ですか?普通、釣書き見るでしょう?」
「会う前は1回会えば終りだと思ってたからな。だから興味がなかったんだ。勤務先も実家の近くのちょっとした工務店だったし。多分、母親のそばにいたかったんだろうな」
「じゃ何がどうなって結婚を?」
俺を睨む部長
いや、睨まれても……
何なんだよ一体……
「一目惚れだよ」
「……は?」
「だから、一目惚れ。何回も言わせるな」
「誰が?」
「僕が」
「誰に?」
「お前はバカか?妻以外に誰がいる?」
「マジかよ……ですか?」
部長はちょっと顔を赤くして、席を外してしまった
俺は呆然としたまま自分の席に戻り、後輩の麻生に言った
「なあ、麻生。皆川部長、奥さんに一目惚れして結婚したらしいぞ」
「は?何言ってるんですか?相川さん。そんなことあるわけないでしょ、部長に限って」
「いや、今本人から聞いたから間違いない」
「……嘘でしょ?」
「現に顔を赤くして、席を外したよ」
と、部長の席を指差した
「一目惚れ?」
「そう」
「あの皆川部長が?」
「ああ」
「俺、奥さんを尊敬します。部長を段々人間らしくしてるですから」
思わず吹き出した
本当にそうだなと思ったから
あの皆川部長に一目惚れさせたり、大爆笑させたり、ましてや、照れて顔を赤くさせるなんて、並みの女性じゃない
だったら尚更……
「恥をかかせる訳にはいかないな」
と、呟いた
部長はあれから何度か三浦常務に、奥さんを出席させないように、掛け合っているようだが、全く聞いて貰えないらしい
「会社の事に祥子を巻き込むなんて……僕は、夫失格だな。あんなに追い詰められてるのに、何もしてあげられない」
そう言って、弱音を吐いている部長を何度も見た
でも俺は、 部長夫妻には悪いが、これからは夫婦同伴でこういう場所に出ることが多くなると、思っている
皆川部長はこれからも出世するのは間違いないんだから
「そこのところは、祥子もちょっとは覚悟してたとは言ってたよ。でも、今回は……」
「三浦常務のやり方が気に入らないと?」
「それもあるが、マーケティング部の進藤も出席するらしい」
あぁ、元カノですか……
「俺が、会場で奥さんを絶対1人にはしませんから」
「……悪い、頼む」
『頼む』
この言葉を何回聞いただろう
パーティー当日は、全力で部長夫妻をフォローしようと、心に決めた