お見合い結婚時々妄想
妊娠が分かってからの慎一郎さんは、こっちがやりすぎですよ?と言うぐらい、過保護になった

重たいものを持つな
高いところには手を伸ばすな
走るな

ぐらいはまだ分からないでもないが

1人で外出するな
1人の時にベランダに出るな
1人の時にお風呂に入るな
などなど……

これはあんまりでしょ?

「慎一郎さん」
「何?」
「私に1人で何もするなって言いたいの?」
「本当にそうしてもらいたいくらいだよ」


そう言った慎一郎さんはマタニティ雑誌を読んでいる
多分、私より詳しくなってるはずだ


「またベランダで倒れられても困るでしょ?」
「もう、何かって言えばその事なんだから」


いい加減忘れてほしいな、あの事は
そりゃ、捻挫してるのにも関わらず無理した私が悪いけど


「ごめん。でも、僕の知らない間に祥子に何かあるのはもう嫌なんだ。それに、今の祥子は大事な体なんだよ?」
「じゃ、美智子や奈南ちゃんには言ってもいい?あの2人と一緒なら、外出してもいいでしょ?」


奈南ちゃんとは、あのパーティーで会ったF社の新藤奈南美さん
あれから友達になって、何がどうなってそうなったのか、慎一郎さんの秘書、相川さんと付き合っている
慎一郎さんは私を見つめて小さく溜め息をついた


「2人とも会社員だよ?平日に祥子の買い物に付き合わせるなんて、そんなこと出来ないでしょ?買い物は休日に僕と行けばいい」


いい加減カチンときた


「じゃ、慎一郎さんが家に帰ってくるまで、家でじっと待ってなきゃいけないの?」


大きな声を出したら涙が零れた
びっくりした慎一郎さんは私の腕を引いて、ソファーに座った
そしてそのまま抱き締められる

「ごめん。でも心配なんだ。祥子のことが」
「事故に遭ったり、ベランダで倒れたりしてるから?」


最近、慎一郎さんには心配かけてばっかりなのは分かってる


「それもあるけど」
「けど、何?」


慎一郎さんはため息をついた


「でも、ごめん。冷静に考えたらあんまりだった」
「慎一郎さん」
「でも、無理はしないで。僕と一緒にいるときは、ちゃんと頼って?」
「うん、分かった」


そうして笑って、触れるだけのキス


「慎一郎さんでも、冷静じゃなくなるときあるんだね」
「そりゃそうだよ。初めて親になるんだよ?」
「私もそうだけど?」
「なんかごめん。さっきから変なことばっかり言ってる」


私は堪えきれず噴き出した


「ねえ?あなたのお父さん、いつもは格好よくて完璧なのに、あなたのために一生懸命すぎて、訳分からないこと言ってる。可笑しいねえ?」


お腹を撫でてると、慎一郎さんが手を重ねた


「本当だよ。君のお母さんと出会ってから、お父さんはらしくないことばかりだ」
「それどういう意味?」


口を尖らせて睨んだら、ははっと笑われた
それからしばらく経って安定期に入り、それぞれの親に報告した
母は4人目の孫なので、大してびっくりはしなかったが喜んでくれた


「頼むから、考え事しながら歩くのは止めてちょうだい」


と念を押されたが……
義父には、慎一郎さんから報告した
義父にとっては初孫なので、とっても喜んでくれたらしい
そんなある日、義父から電話がかかってきた


「祥子さん、体の調子はどうだい?順調かい?」
「はい。ちょっと悪阻がつらいときがあるけど、順調ですよ」
「そうか。祥子さん、あの時の約束、覚えててくれてるかな?」
「はい、覚えてます。忘れません、何があっても」
「ありがとう。その時は、慎一郎を頼みます。背中を押してやって」
「はい。その時は、ちゃんと連絡しますから」


頼んだよと言って、電話を切った
義父との約束
この子を妊娠したときから、慎一郎さんの背中を押してあげるのは、もうすぐじゃないかと思っていた
義父もそう思って連絡してきたんだろう


「きっとあなたのお父さん、いっぱい悩むと思う。お母さん、頑張るね」


お腹に話しかけると、動いたような気がした


「動いたの?お父さんに報告しなきゃ」


慎一郎さんに、赤ちゃんが動いたとメールしたら、定時で上がると返ってきた
帰って来たと思ったら、私のお腹に手を当てて、一生懸命「動いてごらん」と話し掛けていた
でも動いてくれないので、うなだれて着替えるために寝室へ行ってしまった
その後ろ姿が、とっても可愛くて笑ってしまった
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