お見合い結婚時々妄想
段々お腹がぽっこりと出てくるにつれて、慎一郎さんと2人でお腹を撫でながら、赤ちゃんに話しかけることが多くなった
それと同時に、慎一郎さんが1人で物思いに耽ることも増えていった
私は気付いていたけれど、あえて慎一郎さんから話してくれるまで待っていた
そんな時、こんなことを聞かれた
「ねえ、祥子?」
「なあに?」
「祥子はこの子のこと、どういう風に思ってる?」
「どういう風にって?」
「ごめん、変な意味じゃなくて。どう言ったらいいのかな?」
慎一郎さんはう〜ん…と考えこんでしまった
「可愛いとか、産まれてくるのが楽しみとか、そういうの?」
「そうなんだけど。僕ももちろんそう思ってるんだけど、なんかもっと……」
私はふっと笑って、慎一郎さんの手を握った
「そうねえ。多分1番しっくりくるのは、愛おしいって気持ちかな?そんな言葉だけじゃ表現出来ないのがもどかしいけどね」
慎一郎さんは一瞬はっとした顔をして、すぐに笑顔になった
「さすが僕の奥さん。ありがとう、祥子」
「何それ、意味分かんない」
「いいの。祥子は分からなくても」
そうして、優しく私を抱き締めた
それからしばらく経ったある日
慎一郎さんに話があると言われて、ソファーに並んで座った
「祥子、僕の母のことなんだけど」
「お義母さん?」
「話したことなかったよね?」
私は頷いて、でも、と言った
「お義父さんから、ちょっとは聞いてる……かな?」
「父さんから?何て?」
「慎一郎さんが中学生の時に離婚して、それからお義母さんとは、慎一郎さんも、義弟の祐二郎さんも会ってないってことくらいかな?」
そうかと呟いて、息を吐いた
「離婚の原因は?」
「それは聞いてない」
慎一郎さんは私のお腹を撫でて、この子にはあまり聞かせたくないけどと言って続けた
「母が浮気したんだ。それも、父の部下と」
「えっ?」
「それが父にバレた時、父は母に手を挙げた。僕と弟の目の前で」
私は慎一郎さんの手を握りしめた
「そうして、父はこう言ったんだ『子供達を置いて、出て行け』と。母は泣いて謝ったけど、父は許さなかった。母はその日のうちに出て行ったよ。僕と弟にごめんねと何度も謝って……」
辛そうな顔をしながらも、慎一郎さんは話し続けた
「弟は泣き叫びながら、母を追い掛けようとした。でも父が僕に、弟が追い掛けないようにちゃんと見てなさいと言って、自分は部屋に入ったっきり出てこようとしなかった。あの時弟を……祐二郎をなだめるのは大変だったよ」
苦笑しながら俯いた
私はただ、手を握り締めることしか出来ない
「祐二郎が泣き疲れて眠っても、父は部屋から出てこようとはしなかった。普段父が部屋にいるときは父の部屋には近づいた事はなかったけど、その時は自分でも分からないけど、父の部屋に行って、ちょっと開いてたドアの隙間から見た父は……」
慎一郎さんを抱き締めた
そのまま慎一郎さんは私の肩に頭を預けた
「父さんは、声を殺して泣いてた。たった1人で」
私は慎一郎さんの背中をゆっくりと擦った
「それを見たとき、僕は母には絶対会わない。父の前では絶対母の話はしないと誓ったんだ」
「慎一郎さん……」
慎一郎さんは体を起こして、私を見てふっと笑った
「父は、僕から見ても家庭的な人だった。仕事も出来る人だったと思うし、僕と弟とも遊んでくれたし、学校行事も積極的に参加してたし、家の事もよく母を手伝っていた。だから余計に母を許せなかったんだ。でも」
「でも?」
「祥子を見てたら、母に会ってみたいと思った」
「私?」
うんと頷いて、私のお腹を撫でる
「この子を授かってからの祥子は、なんて言うか、本当に母親だなあって。この間もこの子の事を『愛おしい』って言ったでしょ?」
「うん」
「少なくとも僕の母も、僕が覚えている限り、愛情溢れる人だった。絶対に家族のことを『愛おしい』と思ってたはずなんだ」
「何で、そう思えるの?」
「僕に家族が出来たからかな?」
にっこり笑って、優しく私のお腹を撫でた
「会って、どうするの?」
「どうって……とりあえず、この子が産まれることを知らせたい。そして……」
「そして?」
「産んでくれてありがとうって言いたい。母が産んでくれなかっら、祥子とも出会えなかったし、この子も産まれてこないから。今、こうして僕が幸せなのは、両親が出会ってくれたおかげだから」
私は涙を堪えながら、何度も頷いた
「そうだね」
「でもね祥子」
「なあに?」
慎一郎さんは今にも泣きそうな顔だ
「母に会いたいなんて、父に申し訳なくて……父は男手一つで僕達兄弟を育ててくれたのに……大変だったことは、凄く分かってるのに……祥子、どうしたらいいと思う?僕は、どうすればいい?」
私は慎一郎さんを抱き締めた
慎一郎さんが泣いている
大丈夫、大丈夫だよ
慎一郎さん
お義父さん、約束を果たす時が来たようです
「慎一郎さん、ちょっと待ってて?」
と言って、自分のタンスの中に仕舞ってあったものを取り出した
私がリビングに戻ると、慎一郎さんは不思議そうに私を見ていた
私は慎一郎さんの隣に座って、さっき取り出したものを、慎一郎さんに渡した
それは、ただの1枚のメモ用紙
慎一郎さんがそのメモ用紙を見て、息を呑んだ
「祥子。これ?」
「お義母さんの住所と電話番号です」
「いや、でも……なんで?」
「裏を見て?」
「裏?」
メモを裏返した慎一郎さんは、それを見て、手で口を押さえて、嗚咽をもらした
そこには……
『慎一郎、会いに行きなさい』
義父からのメッセージだった
それと同時に、慎一郎さんが1人で物思いに耽ることも増えていった
私は気付いていたけれど、あえて慎一郎さんから話してくれるまで待っていた
そんな時、こんなことを聞かれた
「ねえ、祥子?」
「なあに?」
「祥子はこの子のこと、どういう風に思ってる?」
「どういう風にって?」
「ごめん、変な意味じゃなくて。どう言ったらいいのかな?」
慎一郎さんはう〜ん…と考えこんでしまった
「可愛いとか、産まれてくるのが楽しみとか、そういうの?」
「そうなんだけど。僕ももちろんそう思ってるんだけど、なんかもっと……」
私はふっと笑って、慎一郎さんの手を握った
「そうねえ。多分1番しっくりくるのは、愛おしいって気持ちかな?そんな言葉だけじゃ表現出来ないのがもどかしいけどね」
慎一郎さんは一瞬はっとした顔をして、すぐに笑顔になった
「さすが僕の奥さん。ありがとう、祥子」
「何それ、意味分かんない」
「いいの。祥子は分からなくても」
そうして、優しく私を抱き締めた
それからしばらく経ったある日
慎一郎さんに話があると言われて、ソファーに並んで座った
「祥子、僕の母のことなんだけど」
「お義母さん?」
「話したことなかったよね?」
私は頷いて、でも、と言った
「お義父さんから、ちょっとは聞いてる……かな?」
「父さんから?何て?」
「慎一郎さんが中学生の時に離婚して、それからお義母さんとは、慎一郎さんも、義弟の祐二郎さんも会ってないってことくらいかな?」
そうかと呟いて、息を吐いた
「離婚の原因は?」
「それは聞いてない」
慎一郎さんは私のお腹を撫でて、この子にはあまり聞かせたくないけどと言って続けた
「母が浮気したんだ。それも、父の部下と」
「えっ?」
「それが父にバレた時、父は母に手を挙げた。僕と弟の目の前で」
私は慎一郎さんの手を握りしめた
「そうして、父はこう言ったんだ『子供達を置いて、出て行け』と。母は泣いて謝ったけど、父は許さなかった。母はその日のうちに出て行ったよ。僕と弟にごめんねと何度も謝って……」
辛そうな顔をしながらも、慎一郎さんは話し続けた
「弟は泣き叫びながら、母を追い掛けようとした。でも父が僕に、弟が追い掛けないようにちゃんと見てなさいと言って、自分は部屋に入ったっきり出てこようとしなかった。あの時弟を……祐二郎をなだめるのは大変だったよ」
苦笑しながら俯いた
私はただ、手を握り締めることしか出来ない
「祐二郎が泣き疲れて眠っても、父は部屋から出てこようとはしなかった。普段父が部屋にいるときは父の部屋には近づいた事はなかったけど、その時は自分でも分からないけど、父の部屋に行って、ちょっと開いてたドアの隙間から見た父は……」
慎一郎さんを抱き締めた
そのまま慎一郎さんは私の肩に頭を預けた
「父さんは、声を殺して泣いてた。たった1人で」
私は慎一郎さんの背中をゆっくりと擦った
「それを見たとき、僕は母には絶対会わない。父の前では絶対母の話はしないと誓ったんだ」
「慎一郎さん……」
慎一郎さんは体を起こして、私を見てふっと笑った
「父は、僕から見ても家庭的な人だった。仕事も出来る人だったと思うし、僕と弟とも遊んでくれたし、学校行事も積極的に参加してたし、家の事もよく母を手伝っていた。だから余計に母を許せなかったんだ。でも」
「でも?」
「祥子を見てたら、母に会ってみたいと思った」
「私?」
うんと頷いて、私のお腹を撫でる
「この子を授かってからの祥子は、なんて言うか、本当に母親だなあって。この間もこの子の事を『愛おしい』って言ったでしょ?」
「うん」
「少なくとも僕の母も、僕が覚えている限り、愛情溢れる人だった。絶対に家族のことを『愛おしい』と思ってたはずなんだ」
「何で、そう思えるの?」
「僕に家族が出来たからかな?」
にっこり笑って、優しく私のお腹を撫でた
「会って、どうするの?」
「どうって……とりあえず、この子が産まれることを知らせたい。そして……」
「そして?」
「産んでくれてありがとうって言いたい。母が産んでくれなかっら、祥子とも出会えなかったし、この子も産まれてこないから。今、こうして僕が幸せなのは、両親が出会ってくれたおかげだから」
私は涙を堪えながら、何度も頷いた
「そうだね」
「でもね祥子」
「なあに?」
慎一郎さんは今にも泣きそうな顔だ
「母に会いたいなんて、父に申し訳なくて……父は男手一つで僕達兄弟を育ててくれたのに……大変だったことは、凄く分かってるのに……祥子、どうしたらいいと思う?僕は、どうすればいい?」
私は慎一郎さんを抱き締めた
慎一郎さんが泣いている
大丈夫、大丈夫だよ
慎一郎さん
お義父さん、約束を果たす時が来たようです
「慎一郎さん、ちょっと待ってて?」
と言って、自分のタンスの中に仕舞ってあったものを取り出した
私がリビングに戻ると、慎一郎さんは不思議そうに私を見ていた
私は慎一郎さんの隣に座って、さっき取り出したものを、慎一郎さんに渡した
それは、ただの1枚のメモ用紙
慎一郎さんがそのメモ用紙を見て、息を呑んだ
「祥子。これ?」
「お義母さんの住所と電話番号です」
「いや、でも……なんで?」
「裏を見て?」
「裏?」
メモを裏返した慎一郎さんは、それを見て、手で口を押さえて、嗚咽をもらした
そこには……
『慎一郎、会いに行きなさい』
義父からのメッセージだった