お見合い結婚時々妄想

番外編３ 可愛くてしょうがない

「慎一郎さんの馬鹿！」


どうやら、僕は妻を怒らせたらしい
でもそれは、妻の妄想の中でだが
僕が新聞を読んでいたら突然、今の妻のセリフ
結婚生活が半年以上になった今日この頃
こんな妻の突拍子もないセリフにも大分慣れてきた


「お帰り、祥子。僕は何をしたのかな？」


にっこり笑ってそう言っても、妻は機嫌を治してくれないらしい


「……何もしてません」
「じゃ、何でそんなに怒ってるの？」
「教えないもん」


これは長引きそうだな
どうやら今日はかなりご立腹のご様子
そんな妻の怒っている妻の顔も可愛いくてしょうがないのだが
妻の機嫌が悪いまま、出勤時間が迫ってきた
そのまま妻を残して家を出るのは気が引けるが、しょうがない
新聞を畳んで立ち上がって、カバンを手にして玄関へ向かう
そこでいつもは見送りに玄関まで来てくれる妻が今日は来てくれない


「祥子、行ってきます」


廊下からリビングにいる妻に言ってはみたものの、見送りに来てくれる気配はない
ただ小さな声で


「……行ってらっしゃい」


と聞こえてきた
小さく溜め息をついて家を出た
少し寂しさを感じながら
その日の仕事は散々だった
ちょっとしたミスはするし、部下から質問されても、聞き流してしまったり、挙げ句の果てには、秘書の相川から


「今日は定時で上がってください。はっきり言って、今日の部長は使い物になりません」


と言われる始末
それであっさり僕が


「分かった、帰るよ。お疲れ様」


と言って部屋を出たので、部下達は目を丸くしていたけれど
家に帰る途中、ふと思った
まだ妻の機嫌が悪かったらどうしようかと
妻もあまりズルズルと引きずる性格ではないのだが、朝の様子を思い出すとちょっと不安になった


「ケーキでも買って帰ろうか」


帰りがけに妻のお気に入りのケーキ屋に寄って、妻の喜びそうなケーキを買って店を出る


「祥子、喜んでくれるかな？」


独り言を言いながら、家に帰った


「ただいま」


玄関に入ると、リビングからパタパタと妻が走ってきた
すると、勢いよく僕に抱きついた


「おおっと、危ないよ祥子。びっくりした」


抱きついてきた妻を抱き締めたいが、生憎カバンとケーキが両手を塞いでいる


「……今日の朝は、ごめんなさい」


どうやら妻の機嫌は治ったらしい
それにほっとして、笑顔になる


「気にしてないから、顔上げて？祥子」


不安そうに顔を上げる妻に笑顔を向けた


「ただいま、祥子」
「お帰りなさい、慎一郎さん怒ってないの？」
「全然。はい、これお土産。祥子の好きなケーキ」


妻にケーキを渡すと、笑顔になった


「嬉しい。ありがとう、慎一郎さん」


笑顔の妻にキスをした
朝は、キスが出来なかったから


「どう致しまして。ああ、お腹すいた」
「今日は、慎一郎さんが好きなロールキャベツだよ」
「本当？楽しみだ」



きっと妻は、今日の朝の事を気にして、僕が好きなロールキャベツを作ってくれた
そんな妻の気持ちが嬉しかった


晩御飯を食べて、ケーキを食べながら、妻が聞いてきた


「慎一郎さんは、何で怒らないの？」
「え？」
「今日とか、怒ってもいいと思うけど。なのに、こんなケーキとか買って来てくれるし。私、今日は本当にどうしようかと思ったんだから」


妻は今日１日悩んでいたらしい
また色々考えながら悩んでいたのであろう妻を想像すると可愛くて、自然と笑顔になる


「笑ってるし……」


そう言って、口を尖らせる妻が可愛くてしょうがない


「ごめんごめん。僕にとっては別に怒るような事じゃないからだよ、きっと」
「またそんな事言って甘やかすんだから。私、結婚してから、慎一郎さんに甘えっぱなし。慎一郎さんが怒らないからよ？」
「祥子は僕に怒って欲しいの？」
「それは……」
「じゃ、僕に甘えてればいいんじゃない？僕は一向に構わない」
「もうっ！」


妻は顔を真っ赤にしながらケーキを食べている
またそれが、可愛くてしょうがない
だから僕は、ついつい妻を甘やかせてしまうのである