闇にのまれた光
眠りにつく頃
カタンッー
家へつく頃には三時になった。
……流石にレンも寝ているだろう。

レン「おかえり~」
『……は……?』
レン「ただいまはー?」

『っ、ただいま。』
服を着替えレンのいるリビングに行くと、レンはコーヒーを飲んでいた。


『……コーヒーを飲むから寝られないんだよ?早く寝ないと。』
レン「でも月羽はいつも俺がお出迎えしてたからね。」

律儀なものだ。
『そうだったね。
ありがとう。待っててくれて。』

一向にレンがあの事に関して話そうとする気配がない。
……忘れているのか?

レン「月羽、お友達のところに行ってたんでしょ?どうだった?彼氏さんなの?」

……あぁ、そういうことね。
『彼氏は居ないよ。まぁまぁかな。』
レン「そっか~俺も連れてってくれたら良かったのに。」

『いいでしょ、別に。』
レン「んー、まあいっか。月羽がいるしね~」
『もう寝るよ。』

レン「俺眠れないんだ。月羽、一緒に寝よーよ、お願いっ」

……はぁ……
『……いいけど、服着替えて全部用意済ませてから来なよ。枕忘れないでね。』

レン「はぁーい。」

……なんだかんだ、私はレンに甘い。
けれど、すぐにその甘さを捨てなければいけなくなる時が来る。

兄の幸せのために。
家族の安眠のために。
私の復讐のために。
私のような誰かが生まれないために。

私は、やらなければならない。
それは自分を犠牲にしなければならないほど相手は強力で。


せめてそれまでは。
それまでは、レンのそばにいさせて欲しい。
ごめんね、レン。こんな妹で。
あなたのそばから離れなきゃいけなくなる事を言えなくて。

そんなもの思いにふけりながらベッドに横になっていると、レンが入ってくる気配がした。

私は何も反応しない。レンとは反対方向に向いて、眠っているように、見せる。

レン「月羽ー、月羽ー?……寝ちゃったか……。」
キングベッドにレンが入ってきた。

……寒い。
レン「月羽……」

レンは言葉を止めた。
私が向きを変えてレンの方を向き、目を開けたからだ。

レン「……なぁーんだ、起きてたの?」
『寝ようとしてたよ。』
レン「本当……綺麗になったよね。」
『変わらないよ。』

二卵生の私達は似ていない。
レン「変わるよ。月羽、すごく綺麗だ。本当……ビックリするくらい。」

『……どうしてそんなこというの?』
レン「んー、どうだろうね……。俺は思った事を口に出しただけだから。」

『別にどっちでもいいんだけど……。
レン、レンの方が変わってないよ。
お人好しで、優しくて、強くて、大切にしてくれて、それでいて私を許してしまう愚かな所。全然変わってない。

私は貴方を捨てたも同然なのに。
私は貴方に恨まれて当然のことをしたのに。

何も言わなかった。それはきっと貴方の弱さで愚かさだよ。本当に愚か。』

私は、妹として言っているつもりではなかった。

一人の人間として、レンの弱さにつけこむ人間が消えるように、忠告していた。

レン「……そうだよ。俺は愚かだ。でも、愚かだから強くなれる。月羽を守りたいから強くなれる。
守りたい者は一つだけ。守ってみせるよ。月羽だけは。もう、家族は失いたくない。救ってみせる。二人で暮らせる未来を、俺はきっと切り開く。」

その瞳には、強い光で溢れていた。
私はその瞳を直視できない。

その前にあいつが立ちはだかる。障害物になる。きっと、レンが予想もしないほどの力を手に入れて。
私でしか止められなくなる。あいつは、狂っているから。

私が愛する人間を全て潰そうとするから。
私が世界を愛すれば世界を壊すから。
それほどに狂った愛を私に向けてくるから。

どうしようもないほど悲しくなる。
苦しみはもう負わせない。
私が終わらせる。全てを。

『期待してるよ。2人で幸せに暮らせる未来を、期待する。』

レン「もっと早くに再会したかった。」
『今からでも遅くない。……もう寝るよ。』
レン「……うん。おやすみ、月羽。
天が我らに幸福を与えん事を。」

『与えん事を。』

そのまま眠りに落ちていった私は、苦しそうな顔をして私を抱きしめるレンを知らなかった
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