失恋の傷には媚薬を
亮平さんが来たら
私から別れを伝えよう
そう決めていた
最後だから、と
亮平さんが
食べたがっていたローストビーフを作り
何時に来るかわからない
亮平さんを待つことにする
『…これだけ、か』
テーブルの上に置かれた
亮平さんの私物
何度か泊まりに来ては
私物を置いたままにして行っていた
私物が増えるたびに
嬉しくなっていた時もあったが
今となっては辛いものになっている
いつでも泊まれるようにと
亮平さんのスウェット
歯ブラシにシェーバー
替えのネクタイとクリーニング済みのワイシャツ
スマホの充電器と…
それと、
亮平さんの部屋の合鍵だ
結局、一度も使うことはなかった