girls
社内のクーラーは寒いくらいだった。

ミーティングの準備を新人二年目の後輩たちが行い
一年目の後輩がその様子をジッと見ている。

三年目の私はミーティングルームのパイプ椅子に腰かけて、配布された資料に目を通そうと手を伸ばす。

ドカッ、と隣の椅子が揺れた。
顔をあげると菊川君が座ってた。

「おはよう、すみれちゃん」

「お、はよう」

おはようの、お、が少しぎこちなかった。
まさか、隣に座るとは思っておりませんでしたからね!

「昨日は突然ごめんな」

「あ……えーっと気にしてないよ、大丈夫!」

気にしてない!?これは完全に可笑しい。
大丈夫、なのは確かかもしれないけど。
相手に良い思いをさせないよね?心意を聞きたい所なのに。これじゃ話が先に進まないかも……。チラリと見ると
菊川君は私の目をしっかり見てた。


「本当に?気にしてないの?」


何その真剣な顔。初めて見たかも。
彼の表情が私の言葉一つでここまで変わると面白くて
からかいたい、と意地悪にも感じてしまう。

『ミーティング資料行き渡ってますかー』

後輩二年目がマイクをハウリングさせながら話す。

「あの子は照明なのか……(笑)」

意識が持っていかれて違うことを呟いてしまった。

「あぁ、確かに。音響で二年目がハウリングさせてたらそれはちょっと笑えないかもね」

菊川君も快く同意して笑ってくれた。

「で、気にしてないの?」

くるっと再び熱い視線が私に注がれる。

「……正直言うと少し気にしてる。ね、昨日のあれってどういう事なの」

私は極めて声を小さくして菊川君だけに聞こえるような声で返した。菊川君は私の耳元に口元を近づけて、答えようとして、言った。


「ごめん、ミーティングが終わってからになりそう」

菊川君の茶色の瞳と視線が一瞬交わった。

「へ……?」

私は拍子抜け。と同時に皆が一斉に立ち上がった。

課長や総合係長が入室。
横を見ると菊川君の視線はもう無かった。

切り替え、早くない……?
そう思いつつ月間目標、舞台の変化について
小30分のミーティングタイムが過ぎていく。

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