×princess misfortune×
「もうっ!」

「あっ!」



尋香がヘラを持って踏ん張ったのが悪かった。



弾みでヘラからゆっこの手が離れて、不安定になった湯煎が大きく揺れ、液状になったチョコレートが手の甲にかかってしまった……わたしの。


「熱っ」


小さく呟いたわたしが、水道に行こうとした瞬間、


「ギャーー!! 水水水水!!」


「氷っ!! 氷ぃぃ~~!!」


血相を変えたゆっこ&尋香がわたしの制服を容赦なく引っ張りながら、水道の方へとわたしを連れて行く。


家庭科室一杯に響き渡る二人の絶叫の中で、一番冷静な当事者のわたし。




「ごめんごめんごめんごめんね浅野さーんっっ!!」

「熱かったよね? 痛いよね? 救急車呼ぶ?」



顔をびっしょびしょに濡らした二人が、わたしの体に泣きついている。


まるで実哉×2。


……鬱陶しい。



「ほら。冷やす冷やす」


体にまとわりついた二人を引き離しながら、樹野くんが濡れたタオルを差し出してくれた。



「わたしなら大丈夫。謝らないで」



泣いてる二人がちょっとしおらしくて、ちょっとばかし可哀想なので、とりあえず笑ってみせる。
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