Marriage Knot

その晩夏のレッスンは、夕方まで続いた。桐哉さんは、夜になる前に私を送り出してくれた。ドアを閉めるとき、とっくに眼鏡をはずした桐哉さんが、あのラリエットを首にかけてくれた。そして、

「それではまた来週。さよなら、結さん」

と軽く手のひらを振ってくれた。私も、

「さよなら、桐哉さん」

とようやく彼の目を見てほほ笑むことができた。桐哉さんはちょっと困ったように振る手を止めた。

「いけませんね、結さん。そんなかわいい顔でさよならを言われては、意地悪をしたくなってしまいます」

そうつぶやいたかと思うと、彼は私の耳元に唇を寄せた。

「泊っていきませんか、結さん。離れたくありません」

「ちょ、ちょっと、桐哉さん……!!」
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