Marriage Knot

「ありがとう」
桐哉さんのこぼれる笑顔を見ていると、私の心はじわじわと温まった。

そばにいるだけで、いい。それだけでこんなに幸せな気持ちになれるのだから。

桐哉さんは、タイをそっと胸に当てたまま、思い出すように語りだす。

「僕が編み物を始めたのは、レーシーと姉の影響です。姉は10歳も年が離れていたけれど、僕とは仲が良くて。国内大手のランジェリー会社を経営する「八重原」家に嫁いで、アンティークレースのコレクターになりました。レーシーというのは、飼い猫の名前で、僕が初めて覚えた英単語。「八重原」に、「レーシー」。どちらも思い出深い名前です。……もう、おわかりですね。僕がなぜ「八重原」と名乗ったのか、なぜ「Lacy Knot」というブランドを立ち上げた新進作家の「YUI」さんが編むレースにひかれて、素晴らしい編地のニットタイをオーダーしたのか」

「はい」

「結さんのことも聞かせてください。結さんは、なぜ編み物をされるのですか?」

私は、答えに詰まった。けれど、桐哉さんは真剣な顔で私の顔を見つめている。それで、私は思いつくままに言葉を口に載せていった。
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