Marriage Knot

「私が編み物のことを好きなのは、未来のことを考えられるから、だと思います。……冬に着るベストは、真夏から用意を始めますよね。暑い中、ふわふわの毛糸を触りながら、汗だくになりながらわくわくするんです。今年の冬は、この毛糸で編んだかわいいベストを着てお出かけしようって。冬になると、今度は冷たい金属製のレース針をもって、コットンの白い糸を指に巻きつけながら、来年の夏はこの糸で編んだきれいなレースのドイリーを飾ろう、そうしたらきっと素敵な夏になるってどきどきします。いつも、ちょっと早く、でも誰よりも早く、まだ見えない未来のことを思って、今を頑張ろうって元気になるんです」

丹念にレースを編むように言葉を紡いでいく私。やがて頭の中で、言葉の糸車がゆっくり回転を止めた。桐哉さんは、私の言葉を聞き終わると、納得したように腕を組んだ。

「なるほど。一種の編み物哲学ですね。非常に興味深い」

「いえ、哲学だなんて。そんな大きなものじゃないです」

「あなたは、ほんものですね。僕の見立てに間違いはなかった」



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