Marriage Knot
副社長は、静かな声でつぶやいた。いつも微笑みを絶やさなかった彼の声には、怒りがこもっていた。私は、ちらっと副社長の顔を見上げた。すると、彼は突然私の唇を奪った。それは荒々しく、真摯な副社長に似合わず乱暴なものだったけれど、どこか痛々しいものだった。
「副社長……」
「桐哉、だ」
「桐哉さん、あの」
「俺はいつでも真剣だった。戯れだなんて言わないでくれ。結さんは、遊びだったのか?」
彼の誠実な濃茶の瞳が、すぐそこにあった。抱きしめる腕が震えている。
「私だって、真剣でした。本当に、桐哉さんとの時間は楽しかった。毎回のレッスンが楽しみで、幸せで。こんな気持ちになったこと、今までになかった。す……好きだったから。桐哉さんのこと、好きだったから」
「『だった』?今は?」
「今も。好きです。だから、つらいんです。ほかのだれかと、私の知らない金髪のきれいな女性と、クロシェを楽しんでいた桐哉さんの話を耳にして」
それだけ言うと、私は耐え切れずにまた泣いた。桐哉さんの負担になりたくなかったのに。言ってしまった自分を責める涙だった。
「誤解だよ」
桐哉さんは、ふっと笑った。そして、腕の力をゆるめてくれた。私はその言葉に、思わず彼の真意を探ってしまう。