Marriage Knot
「そんな……あまりに突然のことで、どうしたらいいのか……」

「そうでしょうね。でも、チャンスの女神には前髪しかない。自分でつかみにいかねば世界は開けませんよ」

桐哉さんは、自分のふんわりした前髪をつまんで、にっこり微笑んだ。

「でも、仕事が……。留学にはお金もかかりますし」

私は当然のことながら現実的な心配をした。好きなことや夢にすぐにとびついて、現実を忘れてしまえるほど、私ももう若くはないから。すると、桐哉さんはちょっと目を伏せた。ほおがちょっぴり赤くなる。

「そうですね。でも、結さんがやってみたいというなら僕は応援しますよ。僕にすべてを任せて。結さんは、世界に羽ばたくべきです。……だから、その」

珍しく口ごもる桐哉さん。けれどそれも一瞬で、彼はすぐにまっすぐ私を見据えた。

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