転職先の副社長が初恋の人で餌付けされてます!
「昨日はありがとうございました」
うち、何もないから、と、言いながら、朝食に付き合ってと連れ出されたおかゆの店で、李江は深々と頭を下げた。気持ちとしては、逃げ去るように帰宅したかったけれど、店頭の写真と、やさしい出汁の香りに負けて、というか、食欲が買ったというべきか、よれよれ姿のまま、拓武と共に朝食をとる事になった。
拓武の方も休日とあって、黒いVネックのシャツと、細身のジーンズというカジュアルな姿だ。
「いえいえ、こちらこそ、何のおもてなしもできなくて」
つられて拓武も頭を下げる。
「そんな、私の方こそ!」
と、双方で謝り合っているうちに、注文したおかゆが配膳された。
「ま、とりあえず食べよう」
「……はい、いただきます」
すくって、一口食べると、やさしい出汁の味がひろがる。お米も、するりと入っていく、飲み会翌朝の胃にじんわりとしみ入るような美味に、思わず、李江が、
「おいし……」
と、声に出して言った。
「でしょ?」
うれしそうに拓武が言った。
「ここも、芦名さんを連れ来たかったんだよね~、でも、会社からだとちょっと歩くし、お昼に食べるには、ちょっと軽めかな、と、思ってたから、よかった。一緒にここで朝ご飯が食べられて」
『いっしょに朝ご飯』
というフレーズを深読みして、赤面する李江に、拓武も後から気がついて、はっとする。
「いや! 深い意味は!……ない、から」
後半、消え入りそうな声になり、李江と拓武は二人でうつむいてしまった。
しばらく、無言でもくもくと食べるが。時折、李江が深く味わって、幸せそうにしているのを、拓武はうれしそうに眺めた。
そんな拓武の視線に気づいて、李江が言った。
「……あの、脇田さんは、どうして、こんなに色々ごちそうしてくれるんですか?」
まるで餌付けでもするように、思わず続けてしまいいそうになった一言を李江は飲み込む。
ずっと聞きたくて、でも少し怖かった質問。
入り口で食券を購入する為、またしても拓武におごりになっていた。
「えっと……」
李江から視線を反らし、あさっての方向を見るようにして、拓武がぽつりと語り始めた。
「はじめは、久しぶりに会って、ごちそうしたいなって気持ちから、ランチに誘ったんだ。……で、そこで、君がとても美味しそうに食べている姿を見て、思い出した。初めて会った夏、君や、君の家族と過ごした事を。もっと君を見ていたい、と、思って、また誘って、なんていうか、その、店のグレードや、種類を問わず、ただ、自分が美味しいと思うものを、君も美味しいと言って食べてくれるのが……うれしくて」
一息にそこまで話して、李江と拓武は、またしても互いに赤面してうつむくのだった。
「……あと、ランチなら、時間が決まっているから、別れが辛くない、というか……その、ディナーだと、ずっと一緒にいたくなってしまいそうで……」
すう、と、息を吸い込んでから、決意をしたようにして、今度はまっすぐ李江を見て、拓武が言った。
「……今も、実は、帰したくない……と、思ってる」
休日のお粥屋は、客の数もまばらだったが、その場にいる全員が聞き耳をたてているように、し……ん、と、静まりかえった
うち、何もないから、と、言いながら、朝食に付き合ってと連れ出されたおかゆの店で、李江は深々と頭を下げた。気持ちとしては、逃げ去るように帰宅したかったけれど、店頭の写真と、やさしい出汁の香りに負けて、というか、食欲が買ったというべきか、よれよれ姿のまま、拓武と共に朝食をとる事になった。
拓武の方も休日とあって、黒いVネックのシャツと、細身のジーンズというカジュアルな姿だ。
「いえいえ、こちらこそ、何のおもてなしもできなくて」
つられて拓武も頭を下げる。
「そんな、私の方こそ!」
と、双方で謝り合っているうちに、注文したおかゆが配膳された。
「ま、とりあえず食べよう」
「……はい、いただきます」
すくって、一口食べると、やさしい出汁の味がひろがる。お米も、するりと入っていく、飲み会翌朝の胃にじんわりとしみ入るような美味に、思わず、李江が、
「おいし……」
と、声に出して言った。
「でしょ?」
うれしそうに拓武が言った。
「ここも、芦名さんを連れ来たかったんだよね~、でも、会社からだとちょっと歩くし、お昼に食べるには、ちょっと軽めかな、と、思ってたから、よかった。一緒にここで朝ご飯が食べられて」
『いっしょに朝ご飯』
というフレーズを深読みして、赤面する李江に、拓武も後から気がついて、はっとする。
「いや! 深い意味は!……ない、から」
後半、消え入りそうな声になり、李江と拓武は二人でうつむいてしまった。
しばらく、無言でもくもくと食べるが。時折、李江が深く味わって、幸せそうにしているのを、拓武はうれしそうに眺めた。
そんな拓武の視線に気づいて、李江が言った。
「……あの、脇田さんは、どうして、こんなに色々ごちそうしてくれるんですか?」
まるで餌付けでもするように、思わず続けてしまいいそうになった一言を李江は飲み込む。
ずっと聞きたくて、でも少し怖かった質問。
入り口で食券を購入する為、またしても拓武におごりになっていた。
「えっと……」
李江から視線を反らし、あさっての方向を見るようにして、拓武がぽつりと語り始めた。
「はじめは、久しぶりに会って、ごちそうしたいなって気持ちから、ランチに誘ったんだ。……で、そこで、君がとても美味しそうに食べている姿を見て、思い出した。初めて会った夏、君や、君の家族と過ごした事を。もっと君を見ていたい、と、思って、また誘って、なんていうか、その、店のグレードや、種類を問わず、ただ、自分が美味しいと思うものを、君も美味しいと言って食べてくれるのが……うれしくて」
一息にそこまで話して、李江と拓武は、またしても互いに赤面してうつむくのだった。
「……あと、ランチなら、時間が決まっているから、別れが辛くない、というか……その、ディナーだと、ずっと一緒にいたくなってしまいそうで……」
すう、と、息を吸い込んでから、決意をしたようにして、今度はまっすぐ李江を見て、拓武が言った。
「……今も、実は、帰したくない……と、思ってる」
休日のお粥屋は、客の数もまばらだったが、その場にいる全員が聞き耳をたてているように、し……ん、と、静まりかえった