転職先の副社長が初恋の人で餌付けされてます!
【4】副社長に縁談だそうですが私には知ったことではありません
月曜日、出勤する李江の足は重かった。両足に鉄球を繋げた鎖をはめられているんではないかというほどに重かった。
しかし、仕事には行かなくてはならない。
土曜日、朝食をとった店から、李江は逃げ出した。歓迎会の後、路線のトラブルで帰れなくなったところを、拓武の部屋に泊めてもらい、彼の椅子で眠りこけ、ろくに化粧もできず、前日のよれよれの服のまま行った朝食の場で、
「帰したくない……」
と、公衆の面前で言われた李江は、いたたまれなくなってしまった。恥ずかしい。今のみっともない自分を、これ以上拓武に見せたくなかった。
けれど、一人、その場に残された拓武は、もっと恥ずかしかったに違いない。謝罪をしなくては、と、思ったが、よく考えたら拓武に直接連絡する手段が無いのだ。弟の桃弥なら知っていたかもしれないが、尋ねたら理由を聞かれるだろう。上手く説明できる自信が無かった。直接部屋を尋ねようかとも考えたが、再び拓武の前に出る勇気も無かった。
そして、月曜日。当然、会社を休むわけにもいかない。そして、今度拓武に会った時は、きちんとした姿で、話をしたくもあった。
平日だというのに、持っている中で一番お気に入りの下着を身につけている自分に、少しの自己嫌悪を感じつつ、逃げ出した気まずさと、自覚してしまった恋愛感情の整理がつかないまま、会社にたどり着き、何事も無かったように仕事を始めなくてはならないのだ。
しかし、意気込んで出社したものの、週一回、月曜の朝のみ行われる全体朝礼に、拓武の姿は無かった。朝は誰よりも早く来て、夜は誰よりも遅く、「一人ブラック企業」などと、新浦に言われるほど、ワーカホリック気味な副社長の姿が見あたらない事に気づいたのは李江だけでは無く、仕事が始まってからも、少し社内はざわついていた。
グループチャットの中にいる拓武の名前は、オフラインのまま。
「……俺、脇田さんがオフラインになってんの始めて見たかも……」
李江の向かいの席の寺田が、着席するなり驚いて言った。
「いや、さすがにそれはオーバーでしょ、オフラインになった事もあるよ?法令点検で会社が停電してる時とか、社長に無理矢理接待ゴルフに連れ出された時とか」
「でも、社長はいましたよね、朝から」
社外の打ち合わせや、接待に、社長一人で行くことはあっても、副社長が一人で行くことは無いのだと、星野が言った。
李江は、土曜日の事と関係があるのだろうかと思い、気が気では無かった。拓武が会社を休んだのか、と、さえ思ったが、そうでは無かった。
「へー、めっずらしー、脇田サン一人で打ち合わせ?」
偶々通りかかった新浦を捕まえた星野が問いつめた結果、新浦がしぶしぶ答えた。
「技術的な話だけ、先にして欲しいって、あと、先方の担当が変わるみたいだから、面通し?みたいな」
「でも、そういう時っていつも社長と一緒でしたよね? 脇田さん、人前でしゃべるの好きじゃないってゆーか」
「できなくはないんだよ、面倒がってやらないだけで」
「あやしーな。新浦サン、なーんか、たくらんでませんか?」
作業する手を止めずに、視線だけをずらして星野が尋ねると、
「何だ、たくらむって……」
憮然として、新浦が答える、……が、否定はしないようだ。
「ほらほら、口動かしてないで、仕事して下さい」
そう言って、新浦はそそくさと立ち去った。
しかし、仕事には行かなくてはならない。
土曜日、朝食をとった店から、李江は逃げ出した。歓迎会の後、路線のトラブルで帰れなくなったところを、拓武の部屋に泊めてもらい、彼の椅子で眠りこけ、ろくに化粧もできず、前日のよれよれの服のまま行った朝食の場で、
「帰したくない……」
と、公衆の面前で言われた李江は、いたたまれなくなってしまった。恥ずかしい。今のみっともない自分を、これ以上拓武に見せたくなかった。
けれど、一人、その場に残された拓武は、もっと恥ずかしかったに違いない。謝罪をしなくては、と、思ったが、よく考えたら拓武に直接連絡する手段が無いのだ。弟の桃弥なら知っていたかもしれないが、尋ねたら理由を聞かれるだろう。上手く説明できる自信が無かった。直接部屋を尋ねようかとも考えたが、再び拓武の前に出る勇気も無かった。
そして、月曜日。当然、会社を休むわけにもいかない。そして、今度拓武に会った時は、きちんとした姿で、話をしたくもあった。
平日だというのに、持っている中で一番お気に入りの下着を身につけている自分に、少しの自己嫌悪を感じつつ、逃げ出した気まずさと、自覚してしまった恋愛感情の整理がつかないまま、会社にたどり着き、何事も無かったように仕事を始めなくてはならないのだ。
しかし、意気込んで出社したものの、週一回、月曜の朝のみ行われる全体朝礼に、拓武の姿は無かった。朝は誰よりも早く来て、夜は誰よりも遅く、「一人ブラック企業」などと、新浦に言われるほど、ワーカホリック気味な副社長の姿が見あたらない事に気づいたのは李江だけでは無く、仕事が始まってからも、少し社内はざわついていた。
グループチャットの中にいる拓武の名前は、オフラインのまま。
「……俺、脇田さんがオフラインになってんの始めて見たかも……」
李江の向かいの席の寺田が、着席するなり驚いて言った。
「いや、さすがにそれはオーバーでしょ、オフラインになった事もあるよ?法令点検で会社が停電してる時とか、社長に無理矢理接待ゴルフに連れ出された時とか」
「でも、社長はいましたよね、朝から」
社外の打ち合わせや、接待に、社長一人で行くことはあっても、副社長が一人で行くことは無いのだと、星野が言った。
李江は、土曜日の事と関係があるのだろうかと思い、気が気では無かった。拓武が会社を休んだのか、と、さえ思ったが、そうでは無かった。
「へー、めっずらしー、脇田サン一人で打ち合わせ?」
偶々通りかかった新浦を捕まえた星野が問いつめた結果、新浦がしぶしぶ答えた。
「技術的な話だけ、先にして欲しいって、あと、先方の担当が変わるみたいだから、面通し?みたいな」
「でも、そういう時っていつも社長と一緒でしたよね? 脇田さん、人前でしゃべるの好きじゃないってゆーか」
「できなくはないんだよ、面倒がってやらないだけで」
「あやしーな。新浦サン、なーんか、たくらんでませんか?」
作業する手を止めずに、視線だけをずらして星野が尋ねると、
「何だ、たくらむって……」
憮然として、新浦が答える、……が、否定はしないようだ。
「ほらほら、口動かしてないで、仕事して下さい」
そう言って、新浦はそそくさと立ち去った。