転職先の副社長が初恋の人で餌付けされてます!
「新浦サン、なんかたくらんでるね」
昼休みになっても拓武は会社に会われなかった。グループチャットはオンラインになったらしく、外から繋げてはいるらしい。
週末の約束通り、星野、寺田と共にランチに出て、席に落ち着くなり星野が言った。
「たくらむって、沙苗さん……」
すかさず寺田がつっこんだ。
「何か心当たりでも?」
確信めいて言う星野の様子に李江も尋ねた。
会社から少し離れた、夜は居酒屋になる店は、個室もあり、密談にはもってこいの場所だった。
「新浦サン、三鷹サン、脇田サンがいわゆる創業メンバーってやつなわけよ、私が入った頃に、ちょうど人事にも一人入って……私と同じくらいの女の子だったんだけど」
「女の子って……」
寺田がぼやくと、
「女子だったの! 当時はまだ」
すかさず星野が言い返した。
「創業メンツ三人の中で、独身って脇田サンだけなの」
「えー、でも、今時三十で独身って、別にめずらしくもないでしょ?」
そう言う寺田はまだ二十五で、独身。星野は二十九で夫がいる。
「その、私の同期だった子に話を戻すけど、新浦さんから、脇田サンとか、どう? って、猛プッシュがあったみたいよ、最初だけだけどね」
「え……マジっすか?」
寺田がびっくりして身を乗り出す。
李江もそれには驚いた。
「その子は当時彼氏もいたし、脇田サン本人からもクレームが入って、すぐ収まったらしいけどね」
「その、星野さんの同期の方は、結局どうされたんですか? 今も社内に?」
気になって李江が尋ねると、その後、結婚し、出産と同時に退職したのだそうだ。
「えー、新浦さんって、そういう事するんだ……」
「まー、セクハラギリギリだしね、その後、途中入社の女性がいても、そういう話は聞こえてこないんだけど……」
「ここからは私の予測というか、ゲスの勘ぐりってやつなんだけど」
そう言いおいて、星野が持論を展開した。
拓武はライジェルの副社長だが、実質的な仕事は最高技術責任者、CTOに近い。技術的なサービスが業種の要となっているライジェルとしては、拓武に頼る比重がかなり大きいのだ。その為、新浦は拓武の健康にかなり配慮もし、体調管理については少し口やかましいほどに指摘するのだそうだ。
「多分、結婚して、落ち着いて欲しいんだと思うよ?」
家族のいない拓武は身軽で、技術力もある、仮に、他社へ引き抜かれるような事があったら、屋台骨がぐらつきかねない。
「もちろん、そうならないように、体制は整いつつあるけどさ」
フリードリンクの烏龍茶を星野が飲み干すと、ちょうど三人分の定食が運ばれてきて、すこし話が途切れる。
「脇田さん、自己管理はきちんとされてそうですけど……」
食事をすませてから、ぽつりと李江がつぶやいた。先日世話になった拓武の部屋は整っていたし、きちんとした生活基盤があるように見える。少し服装にかまわないようなところはあるが、健康については自己管理ができているように思えた。
「えー、李江ちゃんくわしーいー」
確信を持って話す李江をニヤニヤ見つめながら星野が言った。
「俺、脇田さんは芦名さんに気があるんだと思ってた……」
「はーい、私もー」
星野と寺田、二人揃って李江に注目すると、李江は真っ赤になってうつむいてしまった。答えずとも、李江の気持ちは一目瞭然だった。
「あれ?李江ちゃんも脇田サンの事が?」
それ以上の追求を逃れようと、李江は時計を見て、ランチタイムの終わりを告げた。二人はしぶしぶ追求をあきらめたが、おそらく隙あらば聞いてくるだろう。
しかし、李江のそれは杞憂に終わった。
午後、会社に姿を表した拓武が、女性をともなっていたからだ。星野も寺田も、拓武と共に姿を表した女性の姿に、李江を思んばかって、それ以上の追求ができなくなってしまった。
その女性は、長身の拓武と並んでも見劣りしないほどに長身で、モデル体型の美女だった。パンツスーツに、ひっつめた髪は一見地味だったが、そのシンプルさが、かえってスタイルの良さを際だたせる。
「誰よーーーーー!!! あの美人!!!」
星野は、声を出すわけにもいかず、寺田と李江、三人だけのグループチャットに思わず書き込んでしまった。ログが残ってしまう為、通常、私語はしないのだが、吐き出さずにはにはいられなかったのだろう。
「すげぇ、脇田さんが普通にしゃべってる」
寺田も星野につられてグループチャットに書き込んでいる。
拓武は、女性をともなって社長室へ入っていったらしい。というのは社長室のあるフロアにいる他チームからの情報だ。
「あ、俺、コーヒーとってこようっと」
白々しく寺田が空になったコーヒータンブラーを持って、席を立った。社長室の近くには、休憩コーナーがあり、スタッフは自由に飲み物を補給できるようになっている。
もちろん、李江も拓武と一緒にいた女性が気になってしょうがなかったが、仕事に集中しなくては、と、ヘッドホンを耳にねじこんだ。電話応対の必要の無い開発チームは、ヘッドホン使用が許可されている。今はそれがありがたかった。
昼休みになっても拓武は会社に会われなかった。グループチャットはオンラインになったらしく、外から繋げてはいるらしい。
週末の約束通り、星野、寺田と共にランチに出て、席に落ち着くなり星野が言った。
「たくらむって、沙苗さん……」
すかさず寺田がつっこんだ。
「何か心当たりでも?」
確信めいて言う星野の様子に李江も尋ねた。
会社から少し離れた、夜は居酒屋になる店は、個室もあり、密談にはもってこいの場所だった。
「新浦サン、三鷹サン、脇田サンがいわゆる創業メンバーってやつなわけよ、私が入った頃に、ちょうど人事にも一人入って……私と同じくらいの女の子だったんだけど」
「女の子って……」
寺田がぼやくと、
「女子だったの! 当時はまだ」
すかさず星野が言い返した。
「創業メンツ三人の中で、独身って脇田サンだけなの」
「えー、でも、今時三十で独身って、別にめずらしくもないでしょ?」
そう言う寺田はまだ二十五で、独身。星野は二十九で夫がいる。
「その、私の同期だった子に話を戻すけど、新浦さんから、脇田サンとか、どう? って、猛プッシュがあったみたいよ、最初だけだけどね」
「え……マジっすか?」
寺田がびっくりして身を乗り出す。
李江もそれには驚いた。
「その子は当時彼氏もいたし、脇田サン本人からもクレームが入って、すぐ収まったらしいけどね」
「その、星野さんの同期の方は、結局どうされたんですか? 今も社内に?」
気になって李江が尋ねると、その後、結婚し、出産と同時に退職したのだそうだ。
「えー、新浦さんって、そういう事するんだ……」
「まー、セクハラギリギリだしね、その後、途中入社の女性がいても、そういう話は聞こえてこないんだけど……」
「ここからは私の予測というか、ゲスの勘ぐりってやつなんだけど」
そう言いおいて、星野が持論を展開した。
拓武はライジェルの副社長だが、実質的な仕事は最高技術責任者、CTOに近い。技術的なサービスが業種の要となっているライジェルとしては、拓武に頼る比重がかなり大きいのだ。その為、新浦は拓武の健康にかなり配慮もし、体調管理については少し口やかましいほどに指摘するのだそうだ。
「多分、結婚して、落ち着いて欲しいんだと思うよ?」
家族のいない拓武は身軽で、技術力もある、仮に、他社へ引き抜かれるような事があったら、屋台骨がぐらつきかねない。
「もちろん、そうならないように、体制は整いつつあるけどさ」
フリードリンクの烏龍茶を星野が飲み干すと、ちょうど三人分の定食が運ばれてきて、すこし話が途切れる。
「脇田さん、自己管理はきちんとされてそうですけど……」
食事をすませてから、ぽつりと李江がつぶやいた。先日世話になった拓武の部屋は整っていたし、きちんとした生活基盤があるように見える。少し服装にかまわないようなところはあるが、健康については自己管理ができているように思えた。
「えー、李江ちゃんくわしーいー」
確信を持って話す李江をニヤニヤ見つめながら星野が言った。
「俺、脇田さんは芦名さんに気があるんだと思ってた……」
「はーい、私もー」
星野と寺田、二人揃って李江に注目すると、李江は真っ赤になってうつむいてしまった。答えずとも、李江の気持ちは一目瞭然だった。
「あれ?李江ちゃんも脇田サンの事が?」
それ以上の追求を逃れようと、李江は時計を見て、ランチタイムの終わりを告げた。二人はしぶしぶ追求をあきらめたが、おそらく隙あらば聞いてくるだろう。
しかし、李江のそれは杞憂に終わった。
午後、会社に姿を表した拓武が、女性をともなっていたからだ。星野も寺田も、拓武と共に姿を表した女性の姿に、李江を思んばかって、それ以上の追求ができなくなってしまった。
その女性は、長身の拓武と並んでも見劣りしないほどに長身で、モデル体型の美女だった。パンツスーツに、ひっつめた髪は一見地味だったが、そのシンプルさが、かえってスタイルの良さを際だたせる。
「誰よーーーーー!!! あの美人!!!」
星野は、声を出すわけにもいかず、寺田と李江、三人だけのグループチャットに思わず書き込んでしまった。ログが残ってしまう為、通常、私語はしないのだが、吐き出さずにはにはいられなかったのだろう。
「すげぇ、脇田さんが普通にしゃべってる」
寺田も星野につられてグループチャットに書き込んでいる。
拓武は、女性をともなって社長室へ入っていったらしい。というのは社長室のあるフロアにいる他チームからの情報だ。
「あ、俺、コーヒーとってこようっと」
白々しく寺田が空になったコーヒータンブラーを持って、席を立った。社長室の近くには、休憩コーナーがあり、スタッフは自由に飲み物を補給できるようになっている。
もちろん、李江も拓武と一緒にいた女性が気になってしょうがなかったが、仕事に集中しなくては、と、ヘッドホンを耳にねじこんだ。電話応対の必要の無い開発チームは、ヘッドホン使用が許可されている。今はそれがありがたかった。