転職先の副社長が初恋の人で餌付けされてます!
【2】副社長に餌付けされそうです
一週間後、(株)ライジェル、面接で脇田拓武に再会したのと同じ会議室で、李江は待たされていた。
……結局、李江は、ライジェルへの就職を決めた。能天気な黒木の声で、採用だった事を告げられ、李江は少し困惑した。当然不採用になるとばかり思っていたからだった。条件○、環境○、ただ一つ、副社長が『昔の知り合い』な事が不安要素ではあった。(正しくは初恋の人と言うべきなのだけれど、自分の中でそれを繰り返して思い出す事はよいことではないような気がした)
ほどなくして、ノックと共に人事総務担当の新浦(にうら)が現れた。
「どーも。お待たせしました」
小柄でにこやかなのは、初回面接の時と変わらないのだが、どうもちらちら何度も見られている……ような、気がして、李江は、いやいや、自意識過剰だ、と、極力表情を崩さないようにする。
「芦名さん、まずは、社長室にご案内しますね」
別フロアにあるのだという社長室へ移動する短い間、フロアの説明をざっくり受ける。
「副社長……は、既に最終面接で会ってますよね」
副社長、というところで新浦が一瞬言いよどんだような気がしたけれど、いやいや、気のせいだ、李江は表情を極力崩さないようにしていたのだが……。
「初めまして、芦名李江さんだよね」
インターネットで何度も見た、社長の三鷹はいかにもIT系の若き経営者という感じで、さわやかなイケメンだった。オーダーメイドだろう、長身にピッタリ合ったスーツを、隙なく着こなしている。
「はい、今日からよろしくお願いします」
少し緊張気味に李江が頭を下げると、
「あー、そういう堅苦しいのはいいから、よろしくね、副社長から話は聞いてるよ」
『副社長』という言葉に李江は反応しそうになったが、表情を崩さないように、笑顔をキープする。
「脇田が自分から面接したい、なんて言い出すからどんな子かと思ったけど、かわいーじゃん、あいつ、公私混同とか、してないよね」
「社長、それ、セクハラですよ」
社長の軽口に新浦がやんわりと釘を指す。
「あ、ゴメンゴメン、芦名さんも、ゴメンね? 気を悪くしないでね」
社長の態度はあくまでも軽かった。李江は、動揺を隠すのに精一杯で、セクハラなどどうでもよかったが、拓武が、自分から、面接したい。と、言い出したという事に、はやる鼓動をおさえるのは中々に難しかった。
午前中は、ほぼオリエンに終始した。昼食については所属部署内で時間調整して好きにとっていいという事で、今日のところは自分と行こうと誘う新浦に、ちょっと待っててね、と、言われて、会議室で待っていると、ノックと同時に現れたのは拓武だった。
「あっ、あのっ、今日から、……よろしくお願いします」
各部署への案内で、挨拶続きだったせいか、李江は反射的におじぎしてしまう。
「あ、うん、よろしく、ちょっと来てくれる?」
挨拶もそこそこに、李江は拓武の手で連れ出されてしまった。
「あっ、あの、新浦さんが、一緒に昼食を、と……」
エントランスまで出て、人がいない事を確認して、李江が言った。
「新浦には言ってある。昼飯、俺と行こう」
「は?!」
思わず出た大声だったが、ちょうど扉の開いたエレベーターの音のおかげで、エントランス中に響きわたるという事態は避けられた。
……結局、李江は、ライジェルへの就職を決めた。能天気な黒木の声で、採用だった事を告げられ、李江は少し困惑した。当然不採用になるとばかり思っていたからだった。条件○、環境○、ただ一つ、副社長が『昔の知り合い』な事が不安要素ではあった。(正しくは初恋の人と言うべきなのだけれど、自分の中でそれを繰り返して思い出す事はよいことではないような気がした)
ほどなくして、ノックと共に人事総務担当の新浦(にうら)が現れた。
「どーも。お待たせしました」
小柄でにこやかなのは、初回面接の時と変わらないのだが、どうもちらちら何度も見られている……ような、気がして、李江は、いやいや、自意識過剰だ、と、極力表情を崩さないようにする。
「芦名さん、まずは、社長室にご案内しますね」
別フロアにあるのだという社長室へ移動する短い間、フロアの説明をざっくり受ける。
「副社長……は、既に最終面接で会ってますよね」
副社長、というところで新浦が一瞬言いよどんだような気がしたけれど、いやいや、気のせいだ、李江は表情を極力崩さないようにしていたのだが……。
「初めまして、芦名李江さんだよね」
インターネットで何度も見た、社長の三鷹はいかにもIT系の若き経営者という感じで、さわやかなイケメンだった。オーダーメイドだろう、長身にピッタリ合ったスーツを、隙なく着こなしている。
「はい、今日からよろしくお願いします」
少し緊張気味に李江が頭を下げると、
「あー、そういう堅苦しいのはいいから、よろしくね、副社長から話は聞いてるよ」
『副社長』という言葉に李江は反応しそうになったが、表情を崩さないように、笑顔をキープする。
「脇田が自分から面接したい、なんて言い出すからどんな子かと思ったけど、かわいーじゃん、あいつ、公私混同とか、してないよね」
「社長、それ、セクハラですよ」
社長の軽口に新浦がやんわりと釘を指す。
「あ、ゴメンゴメン、芦名さんも、ゴメンね? 気を悪くしないでね」
社長の態度はあくまでも軽かった。李江は、動揺を隠すのに精一杯で、セクハラなどどうでもよかったが、拓武が、自分から、面接したい。と、言い出したという事に、はやる鼓動をおさえるのは中々に難しかった。
午前中は、ほぼオリエンに終始した。昼食については所属部署内で時間調整して好きにとっていいという事で、今日のところは自分と行こうと誘う新浦に、ちょっと待っててね、と、言われて、会議室で待っていると、ノックと同時に現れたのは拓武だった。
「あっ、あのっ、今日から、……よろしくお願いします」
各部署への案内で、挨拶続きだったせいか、李江は反射的におじぎしてしまう。
「あ、うん、よろしく、ちょっと来てくれる?」
挨拶もそこそこに、李江は拓武の手で連れ出されてしまった。
「あっ、あの、新浦さんが、一緒に昼食を、と……」
エントランスまで出て、人がいない事を確認して、李江が言った。
「新浦には言ってある。昼飯、俺と行こう」
「は?!」
思わず出た大声だったが、ちょうど扉の開いたエレベーターの音のおかげで、エントランス中に響きわたるという事態は避けられた。