【短編】甘えないで、千晶くん!
顔を隠すように俯いて、泣かないようにぎゅっと唇を噛んだ、のに。
「っ、え…」
私の手に重なった大きな手に、思わず顔を上げた。
…どう、して。
彫刻みたいに綺麗な指先が、するりと私の指の間を通って。
気づいた時には完成している、恋人繋ぎ。
「…しー」
空いている右手の人差し指を口に当てて、何にもないみたいに微笑む千晶くん。
意味、わかんない。
どうして今、私にこんなことするの?
田中先輩じゃなくて、どうして、私に。
最低だよ千晶くん。こんなの浮気にカウントされても文句言えないよ。
私のこと巻き込まないでよ。
…巻き込まないで、欲しいのに。
このまま離さないでほしいなんて、私も十分意味わかんないね?