【短編】甘えないで、千晶くん!
そのまま恋人繋ぎは解かれることなく映画は終了して。
館内に明かりが灯ったと当時に何事も無かったかのように千晶くんの手は離れていった。
「中盤すごかったね!爆発何回してたんだろ〜」
「20回はしてたね。俺数えてたけど、途中で諦めた」
「えぇ?千晶数えてるとかやばっ」
楽しそうに話しながら出口へと向かう千晶くんと田中先輩。
その後に続く、私と佐藤くん。
「ていうかお腹すかない?」
「確かに。どっか食べに行こうか」
「うん!私パンケーキがいいな〜」
「はは、女子力」
どんどん遠くなる千晶くんの背中。
楽しそうな、田中先輩の笑顔。
ねぇ、やだ。
…行かないで、千晶くん。
「………紗和?」
気付いたら、追いかけてた。
また遠くに行っちゃいそうな千晶くんの背中を追いかけて、思わず掴んだ服の裾。
「……ゴミ、ついてた」
「ほんと?わざわざありがとう」
私の嘘を疑うことなく、向けられる笑顔。
「じゃあまたね、紗和」
ぽんぽんと頭の上で跳ねる、さっきまで私の手を握っていた掌。