【短編】甘えないで、千晶くん!
鼻と鼻が触れるんじゃないかってくらいの距離に、千晶くんの顔がある。
むっと眉間にシワを寄せても、カッコよさは変わらない。
「俺の長期にわたる猛アピールをこうもスルーされてたとなると、本気で凹むんですけど」
「え、だって、千晶くんは甘えたで」
「うん。紗和にだけね」
むに、とほっぺたをつままれたけど、今日は怒る気になれない。
「それって千晶くん、まさか」
「そのまさかだけど、紗和が全部答えてくれなかったから言ってあげない」
「えぇ!!」
「そりゃそうでしょ。全部答えれたらご褒美って約束だし?」
うぅ。
確かにそうだけど、そうだけどっ!
「……でも」
「…でも?」
「ちょっと今日の紗和、ズルすぎだよね」
「へ?」
「…可愛すぎって言ってんの」
照れ隠しなのか、ガシガシと頭をかく千晶くん。
「鈍感のくせにあざとくて、本当に腹立つ」
「な、なにそれ」
「さっきの、もう1回言ってよ。甘えちゃやだってやつ」
「む、無理無理!!2回目はいくらなんでもっ」
「…言ってくれたら、俺も考える」