『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
サラッとした少し長い前髪を搔き上げる
長い指にはシルバーの指輪が光っていた。


一瞬でも見惚れてしまっていた自分に恥ずかしくなり目を逸らした。




ほら、やっぱり…

昔から初恋は実らないって言うじゃない。

この瞬間まで、自分でもわからなかったけど
予想以上にガッカリした自分に
予想以上に何かに期待をしていたのだと
気付かされたていた。


「なぁー、ベン。亜子ちゃんは俺のことが好きだったんだよなー?」


「知らねーよ、そんな昔の話」


「おいーなんでだよー。貴重な俺のモテ伝説を簡単に忘れんなよ〜」


「なつくな。」


この2人は相変わらず仲良しなんだな。

私の知らないベン
その10年間を祐介は知ってるんだよね。


ん?あれ?


未来と祐介は ずっと付き合ってて
祐介とベンは ずっと仲良しだった…

てことは、なに?

未来は私になにも言わなかったのは
どういうこと?


ベンの長い指に光るアレが全てを物語ってる…とか⁉︎



久しぶりに1度に入ってきた情報量が多すぎで混乱していた。




「ひ、久しぶりだね。元気だった?」
混乱してるのを読まれないように言ったひとことは少しどもってしまった。


眉をひそめて私の顔をまじまじと見るベン。

私から見惚れることはあっても
こんなに見られることなんてなかったから
なんか変な感じだ。



…ゃだ、なんかドキドキしてるゃ。



ベンの口が開いた瞬間、このドキドキが別のものになった。



「っつーか、誰?」


「10年も経ったら、そりゃあわからなくなるよね〜富士屋真凛だよ!」


「知らないんだけど…」


「もぅ〜、相変わらず辛口なんだから!冗談キツイよー。あ!もしかして私があまりにも綺麗になっちゃっからわからないとか?」


この心臓の鼓動は何?
通常とは思えないほど胸打つ鼓動で表情が強張ってる気がしたから紛らわすかのように
冗談を言ってみせた。


「こーゆー奴、俺苦手だわ。向こう行こうぜ、祐介。」


…なに?

冷めた口調がベンの特徴なのはわかってるけど、この冷え切った口調は誰?

私の知ってる ベンじゃ…ない。


私に背を向けて歩き出すベンを追いかけようとする祐介に未来が言った。
「やっぱり
呼ばない方が良かったんじゃない」


なに?未来まで…
私の知らない10年になにがあったの?


確かに、ベンはクラスメイト全員と仲良く話すようなタイプじゃなかったし
同窓会に喜んで来るようなキャラじゃない。

私だってベンが来ることは噂には聞いてたけど、実際に顔を見るまでは信じられなかったし…。


「ごめんね真凛。嫌な気持ちしたよね」

「なに?なんで未来が謝るの?」

未来はキュっと下唇を軽く噛んだ。
それを見て、なにか言いにくいことがあるのだと…流石に鈍感だと言われる私にだって
わかった。



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