『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
「あ、ありがとうございます」

なんで私ってば、ベンに敬語使ってるんだろ
緊張してどもっちゃったじゃん。

「どこに向かいますか?」
俯く私にベンが問いかけた。


「◯◯◯駅近くの◯◯ホテルです。
すみません、歩いてもそんな距離じゃないのに…」


なんで私謝ってんだろ…

「じゃあ運転手さん向かってあげて」

なんか凄くかしこまっちゃう私がいる。



なんか話した方がいたかな。


沈黙が続く車内は少し息苦しい。


ベンがいじる携帯の光だけが目立つ暗い車内で、何か話さなきゃ。と考えているうちに
目的地へと到着してしまった。


財布からお金を取り出すと
私の手の上にそっと長い指がかぶる。


「通り道だからね、お金はいいよ。」

「え。でも…」

「これも何かの縁だと思って!じゃあ」

扉が開くと、優しい笑顔でベンが言った。

促されるように私はそのまま下車すると
タクシーに顔を向ける間も無く
ベンを乗せたタクシーは走り去っていった。



なんだろう、この気持ちは。
違和感?

まるで他人のような口ぶりで、
私には見せないような笑顔。

私だってわからないとしても、
少し前の同窓会で会ったような冷たい雰囲気でもない。


なんだったんだろう…。

でも



ベンの手…あったかかったな。


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