『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
「それって、おかしくない?指輪のことも、かかってくる電話も確認してみたら?」

簡単に出来るならとっくにやってるよ

「ずっとこのままこれでいいの?」

ずっと一緒にいたいよ

「今はまだ25歳だからいいかもしれない。
10年後、
20年後もこのままいられると思う?」


想像もつかないよ

でも
なにより辛いのはベンと逢えなくなること。

10年後、20年後より
私にとっては今がすべてなんだよ。

「10年経って何も変わらないなら
きっとこれからの10年後も変わらないよ」

わかってる。

けど…

「電話しよう」

「え?誰に?」

「前田さんにだよ」

「な、な、なんでー!いいよーしなくて」

「現に今だってテーブルに携帯だして連絡が来るのを待ってるんだろ?
待ってたって何も変わらないぞ」

ロックをかけてればよかったと
今更後悔しても遅く…

篤志の言った通り、ベンからの連絡をすぐにとれるようにテーブルに置いていた私の携帯を取り上げ手慣れたように履歴からベンに電話をかける篤志。

「今日は仕事で名古屋にいるから迷惑だってば!」

体面に座る篤志から必死で電話を取り戻そうとするが、篤志の大きな手で両手首を掴まれ身動きがきかない。

「ほら、電話でないでしょ!仕事中なんだってば!」

言いかけたのも束の間…

「昨日はどうも。小川篤志です。
今、真凛と一緒にいるけど前田さんの彼女じゃないみたいだね。」

「ちょっと!篤志やめてよ!」

さっきまでの冗談交じりの笑顔は消え、
私を鋭く見る篤志に
一瞬言葉が出なくなった。

「悪いけど、真凛のこと俺が貰うよ。」


私の両手首を掴んだ右手と
携帯を持つ左手をテーブルにゆっくり置くと

「俺、真凛に逢いたくて東京に出て来たんだ
今日もまた逢えるんじゃないかって思ってココに来た。」

「なに、言ってるの?」

「俺も10年間、真凛に片想いしてたんだ。
ずっと好きだった。
真凛、俺と付き合ってほしい。」


ストレートに言われ過ぎて唖然とした。

心臓がドキドキしてるのは
キュンと甘酸っぱいような胸が痛くなる感じじゃなくて
誰かに後ろから「わっ!」と驚かされたのと
同じようなドキドキだった。

「好きだ」と言われるコトってこんな感じ?

それともベンに言われる
「すき」じゃないからなの?


沈黙が続く中
篤志の両手が私の両頬を覆った。

「あいつのこと好きなら好きでいい。
あいつのことが好きな真凛をひっくるめて
全部好きなんだ」


篤志は凄いや…

私とは違うんだね。

私は…
彼女との時間も取り上げたくて
毎日愛の証明が欲しくて
ベンの全部が欲しくて欲張りなんだ。

篤志に「うん」て答えたい。
きっと、絶対上手く行くと思う。

こんなに思ってくれるんだもん。
毎日愛の証明を欲しがらなくても
私の為に時間も作ってくれるだろうし
篤志の全部を私に託してくれると思う。


でもダメだよ。

ダメなのは私で…

いくら愛してくれても
私が求めるのはベンだけなんだ。

だから

きっと篤志のこと不幸にさせちゃう。

「待つのには慣れてるから。
でも何もしないで待つのはもうやめたんだ。
真凛が誰かを見てるのはずっと前からわかってたから…
でも、それが誰かもわからなかったから諦めつかなくてさ。
だから、もしダメなら
ちゃんと諦められるように真凛も協力してよ」


さりげなく笑う篤志に断ることが出来なかった。



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