『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
日曜の夜を一緒に過ごして
月曜の朝を初めて迎えたその日。

少し照れくさそうにしながらお互い出勤した

仕事をしながら、昨日を思い出しては
ふくみ笑いをしてしまう。




平日は、だいたい◯◯駅で待ち合わせてから
今日の行き先を決める。
ベンを待ちながらも、またふくみ笑い。


「真凛」
呼びかけたのは篤志だった。

先週末の内容が濃すぎて篤志の存在を忘れかけていたけど、日曜にベンが来てくれたのは
篤志の強引な電話がキッカケだったわけで
なんだか気まずい空気になった。

やっぱり篤志には、キッパリと断るべきだと確信した。

「真凛、前田さん昨日真凛の家に行っただ^_^ろ?」

え?まさか私の家をつけてた?

「やっぱりな」
その質問には答えなかったのに
なぜか名探偵並の推理をしはじめた。

「これから時間ある?」

「これからベンが来るから」

「なら、時間があるってことだね」
そういうと強引に私の腕を引っ張った。

「ちょっと痛い!どこに連れてくの?」
黙って私の腕をグイグイと引っ張り前へ進んで行く篤志。


「おいっ!おまえなにやってんだよ!」
目の前に現れたのは眉をキツく寄せたベンだった。

「君には関係ない」
ベンの肩を弾き飛ばした篤志。

「ああ?関係ないだ?っざけんなっ」
篤志の胸ぐらを掴むベン。

「ちょっと!やめてよ!2人とも!」

「君は、真凛のなんなんだよ!彼氏でもないのに彼氏ヅラなんてするなよ!」

「じゃあ、テメェはなんなんだよ!」

私の声なんて、2人とも聞こえてなくて
益々険悪なムードになっていった。

「真凛の彼氏だ!君のことが好きな真凛でも受け止めるつもりだ!」

「か、彼氏ぃ?なに言ってるのよ篤志ー!」

「真凛は俺のモノなんだよ」

「ベンも、ムキにならなくていいから」

2人して胸ぐらを掴みあったり
肩を突き飛ばしたり、まるで子供の喧嘩のようだった。
篤志が掴んでた腕を離したすきに、
私は2人の間に入った。


…カチャン。コロコロ…

ベンの胸元から落ちたのは
私がベンに貸したシャーペンだった。

篤志の足元に転がったシャーペンを
「これか。」と拾い上げようとすると…

「触るな!」と大きな声をベンが張り上げた

「そんなにそれが大事なら、他の女との指輪なんて外して真凛のこと大事にしてやれよ!」

「篤志!いいから!そんな話しなくていいから!」
聞きたくないことまで聞いてしまうのが怖くて篤志を止めた。

無言でシャーペンを拾い上げるベンに
詰め寄る篤志。

「そのシャーペンの約束を真凛がどんだけ大事にしてきたかわかるか?」


ギロッと、篤志を睨むベン。

「ああ?なんでこのシャーペンに真凛が出てくんだよ!」

「君は何を言ってるんだ?そのシャーペンは中学2年の時に真凛が君に貸したモノだろ!」

「お願い!篤志!それ以上言わないで!」

「真凛!だって!あんなに約束の日のこと大事にしてきたじゃないか!黙ってたって前には進めないんだぞ!」

涙が出た。
ずっと、ひた隠しにしてきたのに…
私がベンの過去を知ってる人とわかったら
ベンが哀しむと思って
新しく出逢った人間として、ここまでやって来たのに。
こんなにもあっさりと簡単に暴露されるなんて…。


「約束の日?いつの話だ?」
ベンがボソッと言った、


「君達が中学3年の時の3月25日15時だよ。
それすらも忘れてるのか…」

呆れたように篤志が言うと、急に目を見開いて髪の毛をぐしゃぐしゃっとかき乱すベン。

「俺が事故にあった日…だ。」

…え‼︎



心臓に針が刺さったようにズキンとした。



もしかして、約束の日。

私にシャーペンを返す為に中学校に行って
事故に遭ったの?


こんなにも残酷な運命なんて…


嘘でしょ?




「真凛は俺のことを昔から知ってるのか?」



また胸にズキンと突き刺さる。
どうしよう…
なんて答えよう。


「昔から知ってたのに、初対面のふりをしてきたのか?」

血の気が引くようにカラダが騒ついた。

「何考えてるかわかんねー。最低だな」

ほら、予想どうりの展開。

私が昔からベンを知ってる人物だったら
きっと私に興味なんて示さなかっただろうし
近づかなかったとわかってた。

「最低だな。」
そう言われても仕方ないよね。


何も答えられずに立ち尽くしていると篤志が
私を一度見てからベンの目の前に立って話し始めた。
「最低なのは君の方だよ。
真凛は言わなかったんじゃなくて、
言えなかったんだよ。
同窓会でも再開してて、そこで会った時に君に知らない!て言われたせいだ!」

「もういい。聞きたくない。」
その場を立ち去ろうとするベンを篤志が引き止める。

「逃げるなよ!真凛がどんな思いでいたか君は知るべきだ!」

「うるせーな!離せよ!」
無理やりベンを振り向かせようとする篤志の手を振り払うベン。


「君がそのシャーペンを持ってるってことは知る権利があるだろ!」

立ち止まりシャーペンを見るベン。

「もう真凛とは会わない。」

私を鋭い目付きで見るベンに足がすくんだ。


「いいんだね?じゃあ僕が奪っちゃうよ」

行かないで!

ベン、行かないで!


「俺は…」


なにかを言いかけたのか
ただ、私が聞き取れなかったのか…

ベンはそのまま走り去っていってしまった。


力が抜けてその場でしゃがみこむ私を支えてくれたのは篤志だった。

「真凛には悪いけど、前田さんは真凛を他の人に盗られたくないだけで真凛だけの為に生きてくれる人じゃないよ。」

薄々は気づいてた。
でも離れたくなくて気づかないふりをしてたのに。

「もうやめろよ。あんなやつ。傷付くだけ無駄だよ」

わかってる。
やめようって思ってやめれるなら
とっくに、私だってそうしてる。

「前田さんを待ってても真凛のところへは来ないよ。」

言わないで!


「わかってるよ!そんなこと!言われなくたって!ぜんぶ…わかって…た。」

涙が止まらない。

子供みたいに声が出るほど泣いた。
泣きすぎて頭が痛くなったのは本当に久しぶりだった。


篤志のせいで、
ベンが離れていってしまったのに
隣にいる篤志を拒否する気力も残ってなくて

いゃ、多分誰でもいいから側にいてほしかっただけかもしれない。

篤志は「弱ってる時に優しくしといて、僕のこと好きにさせるか。」とか笑いながら冗談言ってたけど…

本気でそうしてくれたら
救われるのにな。
…なんて思ったりもした。












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