『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
3月15日。

12年も過ぎたのに、この時期になると
未だにドキドキしてしまう。

3月25日まで、あと10日。
もう約束もないはずのあの日が特別な日な気がしてならないのはどうしてだろうか。


「真凛、最近なんかあった?」

篤志に、そう何度も聞かれるのも仕方ない。

「ううん。何もないよ。」

そうやって毎回返事をしては、申し訳ない気持ちになってしまう。


叶わないと思っていた初恋がある日突然実ってしまい…

そして、散った。

きっと、それがつい最近の事だったから気になっているだけで。

もう、彼への気持ちは断ち切れたはず。

この先、3月25日が来るたびに気になるわけではない。

何年も経てばきっとなんでもない日になる。


「やっぱり、前田さんとのことが忘れられない?」

今日の篤志は、なんだかいつもと違った。

「え?なんで?そんなことないよ。」


「もうすぐ3月25日。だから、真凛はいつもソワソワしてるんだよね?」


「だから、そんなことないって!」

「どうしたら、俺のことだけ見てくれる?」

「 ……。」

「答えは、出ないか。」

「 ……。」

どうしてそんなこと聞くの?

なんて答えたらいいかわからないよ。

「彼のどこがそんなにいいの?僕と何が違うの?」

ベンのいいところ…。

いつも私を男扱いして、すぐに馬鹿にして、からかって。

私のこと好きだとは言ってくれなくて…。

(いいところなんて全然ないじゃん)

そう考えながらも、ふとした瞬間のベンの屈託のない笑顔が頭に浮かんだ。

「もう…無理して笑うことないよ。」

「なんでそんなこと言うの?」

「だって…真凛泣いてるから。」

「え?」

自分でも気づかないうちに頬に涙がつたっていた。

(私、なんで泣いてるの?)

「かっこ悪いよな、自分でイイ!て言ったくせに、彼にヤキモチ妬くなんてさ。僕に気持ちがないのなんて前から知ってたのに、ごめん。」

「篤志…?」

「やっぱり、もう無理だよな。」

「なんで?」

「僕が真凛を笑わせてあげたいと思っていたのに、僕にはそれができないことがわかったから。」

「そんなことないって!」

「真凛はね、心の底から笑ってないんだよ。いつも合わせて笑ってるだけ、気づいてるでしょ?彼に会いたくて心で泣いてるの」

「そんなこと…」

「あるよ!」篤志がキッパリと言った。

「彼のところへ行っていいよ」

行けないよ…。ベンの所に私の居場所なんてないんだから。


「もう引きとめない。…けど背中を押してあげることもできないけど。」

篤志の笑顔がとまった。

「僕も意外と子供のところあるんだよね。真凛のことは大好きだから、応援したいけど今は、そこまで大人になれないから。ごめん」

謝らないでよ。

いつまでもあの日のコトが忘れられなくて…

悪いのは私の方で…

篤志は、いつも優しくて…

だから、全然悪くない。

「諦めないで、頑張れよ。」

大人になれないと、言った篤志は
最後に私の背中を優しく押してくれた。

そして、私に背を向けたまま振り返らなかった。




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