『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
偶然なのか必然なのか、決意してからベンに逢いに行った日は、3月25日だった。
そろそろ会社も終わって帰宅する頃だな。
今まで家も教えてくれなかったのに、家の前で待ち構えてたらビックリするかな?
昨日までの自分が嘘のように、不思議と嫌がられたらどうしよう。なんてことは微塵も思うことがなかった。
お腹すいたな。
なんか、食べてくれば良かったかな…。
そんなことを考えていると、エレベーターが開いた。
ベンだ!
久しぶりに見る彼は、少し髪が伸びて綺麗な栗色の前髪が目にかかっていた。
「ベン?」
私の声かけに気付くと、目をまんまるくして口元を押さえた。
その手には、以前見たシルバーリングはなかった。
その場で立ち止まるベンの近くまで歩いて、唾を飲み込んだ。
「ベン、ずっとずっと12年間大好きでした。そして、これからもきっと大好きです。」
あれだけ言えなかった言葉が、スッと出た瞬間心のどこかで引っかかっていた何かが取れた気がした。
何も動かず、反応がないベン。
あまりにもビックリしすぎたのかな?
「私のこと覚えてないのはわかってる。これからも思い出さなくても全然いい。ただ、私がベンのことが大好きだって毎日伝えたい」
口元を押さえていた手がコートのポケットへとおさまった。
やっぱり黙って、こちらを見ているベン。
これが現実だよね。
覚悟はしていたものの、やっぱりちょっと苦しかった。
「急にごめんね。また明日も来るね、明後日も、明々後日も!私がベンのことが嫌いになれるまで、ずっと逢いにくるから」
あゝ、涙が出そうだ。
でも、言えたことには満足で
涙が出そうだったけどスッキリした気分でベンの前を通り過ぎてエレベーターのボタンを押した。
カッコよく今日は帰らせて欲しいのに、エレベーターはなかなか来てはくれなかった。
ベンも、「来るな」でもなんでもいいから
なんか言ってくれればいいのに。
沈黙に耐えきれなくなった頃、やっと来たエレベーターに乗り込み行き先ボタンを一階へと押した。
「じゃあね。」と言いかけると
ベンは、ドアが閉まるギリギリで扉を勢いよく抑え、私の手首をグイっと引いてきた。
引っ張られた手に少しだけ冷たい何かが触れた。
手のひらの中を見ると見覚えのあるシャーペンだった。
ベンは照れ臭そうにしながら、
「遅くなってき悪ぃ。これ返すわ」と、栗色の前髪をクシャっとしながら言った。
「え?覚えてるの?」
一瞬光が射した気がした。
「悪ぃけど、覚えてねー。でも、これお前のだろ?」
「う、うん」
「多分、これからも思いだすかもわかんねー」
「う、うん」
「でも、…だから。」
「え?」
ボソッと喋るから聞こえなかったのか
心臓の音がバクバク鳴ってて聞こえなかったのか…ベンが何を言ってるのかわからなかった。
閉まるエレベーターの扉を背に、すっぽりとベンの腕と腕の間にハマってしまったせいで心臓の音がうるさくて、もう一度聞き返した。
「なに?聞こえなかった?」
「もう、言ってやらねぇ!」
3月の夜の寒さを感じる唇の感触がした。
また、大切なことを聞き逃しちゃったけど
「でも…すきだから。」
て、きっと言ってくれたんだよね?
12年分の愛を伝えて
12年分の愛を聞こう!
今度こそ、聞き逃さないように…
そろそろ会社も終わって帰宅する頃だな。
今まで家も教えてくれなかったのに、家の前で待ち構えてたらビックリするかな?
昨日までの自分が嘘のように、不思議と嫌がられたらどうしよう。なんてことは微塵も思うことがなかった。
お腹すいたな。
なんか、食べてくれば良かったかな…。
そんなことを考えていると、エレベーターが開いた。
ベンだ!
久しぶりに見る彼は、少し髪が伸びて綺麗な栗色の前髪が目にかかっていた。
「ベン?」
私の声かけに気付くと、目をまんまるくして口元を押さえた。
その手には、以前見たシルバーリングはなかった。
その場で立ち止まるベンの近くまで歩いて、唾を飲み込んだ。
「ベン、ずっとずっと12年間大好きでした。そして、これからもきっと大好きです。」
あれだけ言えなかった言葉が、スッと出た瞬間心のどこかで引っかかっていた何かが取れた気がした。
何も動かず、反応がないベン。
あまりにもビックリしすぎたのかな?
「私のこと覚えてないのはわかってる。これからも思い出さなくても全然いい。ただ、私がベンのことが大好きだって毎日伝えたい」
口元を押さえていた手がコートのポケットへとおさまった。
やっぱり黙って、こちらを見ているベン。
これが現実だよね。
覚悟はしていたものの、やっぱりちょっと苦しかった。
「急にごめんね。また明日も来るね、明後日も、明々後日も!私がベンのことが嫌いになれるまで、ずっと逢いにくるから」
あゝ、涙が出そうだ。
でも、言えたことには満足で
涙が出そうだったけどスッキリした気分でベンの前を通り過ぎてエレベーターのボタンを押した。
カッコよく今日は帰らせて欲しいのに、エレベーターはなかなか来てはくれなかった。
ベンも、「来るな」でもなんでもいいから
なんか言ってくれればいいのに。
沈黙に耐えきれなくなった頃、やっと来たエレベーターに乗り込み行き先ボタンを一階へと押した。
「じゃあね。」と言いかけると
ベンは、ドアが閉まるギリギリで扉を勢いよく抑え、私の手首をグイっと引いてきた。
引っ張られた手に少しだけ冷たい何かが触れた。
手のひらの中を見ると見覚えのあるシャーペンだった。
ベンは照れ臭そうにしながら、
「遅くなってき悪ぃ。これ返すわ」と、栗色の前髪をクシャっとしながら言った。
「え?覚えてるの?」
一瞬光が射した気がした。
「悪ぃけど、覚えてねー。でも、これお前のだろ?」
「う、うん」
「多分、これからも思いだすかもわかんねー」
「う、うん」
「でも、…だから。」
「え?」
ボソッと喋るから聞こえなかったのか
心臓の音がバクバク鳴ってて聞こえなかったのか…ベンが何を言ってるのかわからなかった。
閉まるエレベーターの扉を背に、すっぽりとベンの腕と腕の間にハマってしまったせいで心臓の音がうるさくて、もう一度聞き返した。
「なに?聞こえなかった?」
「もう、言ってやらねぇ!」
3月の夜の寒さを感じる唇の感触がした。
また、大切なことを聞き逃しちゃったけど
「でも…すきだから。」
て、きっと言ってくれたんだよね?
12年分の愛を伝えて
12年分の愛を聞こう!
今度こそ、聞き逃さないように…