きみの好きなところを数えたら朝になった。


「……先輩。私やっぱりダメでした」

自分で決めて、片想いの結末を見届ける決心をした。それは先輩があの時、私の背中を押してくれたからできたこと。


「私……西崎の彼女になりたかったんです。私……っ、西崎の特別になりたかったんです」

叶わないと分かっていても、それでも願った。

誰よりもなによりも大切にする。

なによりも誰よりも好きだから、

私は西崎の隣に並んで、触れ合えて、繋がっていられる、そんなたったひとつしかない椅子がほしかった。


「分かってたんです。最初から。西崎は私を選ばないって」

「………」

「分かってたけど、それでも私は……」

その時ふわりと髪の毛が揺れて、気づくと先輩は私を抱きしめていた。

男の人の力で、苦しいぐらい強くて、先輩の甘くて優しい匂いが私の身体を包みこむ。


「俺にすればいいのに」

先輩が耳元で呟いた。

そしてさらに力強く抱きしめられて、先輩の絞り出すような声が公園に響く。


「俺にしてよ、澪ちゃん」

心が揺れた。

冷たくなっていた身体が一気に先輩の体温で暖かくなって、抱きしめ返そうと伸びた手が寸前で止まる。


そしてその日から、西崎は私の家に帰ってこなかった。
< 152 / 170 >

この作品をシェア

pagetop