きみの好きなところを数えたら朝になった。
『あのさ、帰りにケチャップ買ってきてくんない?』
『は!?』
まるで仕事帰りのお父さんに買い物を頼むみたいな言い方で、思わず反応が大きくなる。
さっきまでせっちゃんと西崎のことについて話していたなんて夢にも思ってない本人はガサガサとなにかを漁っている様子。
『いや、晩ごはんにオムライス作ろうと思ってたんだけど冷蔵庫見たらケチャップがなくてさ』
どうやら西崎は祝日なのに家にいるらしい。しかも居候なのに我が家のように冷蔵庫を開け閉めする辺りが西崎らしいというか……。
『今日桃香ちゃんとデートじゃないんだ』
まるで独り言のようにそんなことを聞いてしまっていた。
『あーなんか家族で出掛けてるらしいよ。だから俺は寂しく留守番。でさ、ケチャップだよ。ケチャップ。今日瀬山と遊んでんだろ?帰りに買ってきて』
西崎がオムライスを作ってくれるなんて不安しかない。
絶対フライパンを焦がしそう。そもそも卵とか綺麗に焼けるんだろうか。まだお昼すぎなのに晩ごはんのことを考えてるなんて、よっぽどやることがなくて暇なんだろう。
『はいはい。わかったよ。ケチャップね』
『何時ごろ帰ってくる?』
『分かんないけど6時には帰る』
『あいよ』
西崎との電話を切って自分の顔が緩んでることに気づいた。
やっぱりなんの縛りもない関係のほうがラクだ。こんな風に西崎と気軽に話せるのなら、私はこの気持ちを永遠に閉じこめても構わないと思った。