ブーケ・リハーサル
【1】新しい場所
 花嫁が投げるブーケ。それが一番取りやすい場所はどこか知ってる? それは一番前。ちょっと意外だと思わない? ブーケって軽いから結構後ろまで飛びそうな感じがしない? でも全然飛ばないんだ。

 ブーケは持つ部分である茎がおもり代わりになって、ボールのように綺麗な放物線を描くことはできない。斜め上に浮き上がってすとーんっと落下するだけ。だから、ブーケを取りたいなら一番前に行かなくちゃいけない。

 それは恋と一緒。欲しければ誰よりも前へ行け。それを非情なまでに実行した女が、彼の横に立ってブーケトスをしようとしている。私はそんなブーケを触りたくもない。だから、人の群れの一番後ろにいる。お情けで一応笑顔くらいは作ってあげた。



 職場の荷物の整理も終わった。近くにある郵便局で、荷物を自宅配送してもらう。これで身軽にこの会社を去ることができる。

「高山先輩、今日で退職なんですよね」

 その言葉に振り向くと、上田さんが立っていた。彼女は二年前に入社した子で、私が指導担当をした。仕事が丁寧で真面目。いい後輩に恵まれたと思う。

「うん。上田さんが立派に成長してくれたから、心置きなく辞められるよ」
「そんなことないです。私なんて、まだまだです。高山先輩がいないと不安です」
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