ブーケ・リハーサル
「実は、妹がこれからそっちへ向かう。悪いが相手をしてもらえないか」
「妹さんですか?」
「ああ」

 副社長の言葉には参ったなというニュアンスが端々から出ていた。異性の兄妹はいろいろと難しいのだろう。

「分かりました。妹さんのお名前を教えていただけますか」
「古賀 樹里、大学三年。多分、荷物を置いたらさっさと帰ると思うから」
「樹里さんですね。こちらで対応いたします」
「なにかあったら、私の携帯に連絡を」
「はい」

 通話が切れ、スマホをデスクに置く。こういう場合、応接室に通せばいいのだろうか。

「佐々木課長、これから副社長の妹さんがいらっしゃるそうです。応接室にお通しすればいいでしょうか?」
「ああ、樹里ちゃんが来るんですね。応接室でいいですよ。給湯室に雨月堂の焼き菓子があるのでそれを出してください。あと、飲み物はアイスミルクティーで」
「分かりました」

 忘れないうちに。“古賀樹里、大学三年、副社長の妹、雨月堂の焼き菓子とアイスティーが好き” 樹里さんのプロフィールを手帳にとメモした。

 今までの私ならこういうメモをすることはなかっただろう。さっき田中さんからもらった資料には、社長それぞれの簡単なプロフィールも書かれていた。
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