ブーケ・リハーサル
　食事が終わり、自分の分を払おうとお財布を出した。

「いいよ。ここは俺のおごり」
「いや、でも」
「いいんだよ。本来なら歓迎会をしなくちゃいけないんだが、皆、仕事の終わる時間がまちまちだから、いつ歓迎会ができるかわからない。だから、俺からのささやかな歓迎だ」
「分かりました。お言葉に甘えて。ごちそうさまです」
「うん」

　副社長が会計を終え、二人で並んで会社へ向かう。

「なあ」
「はい」
「また、電話してもいいか？」

　びっくりして隣にいる副社長の顔を見上げた。

「夜、暇なとき。映画の話がしたい」
「私は別に構いませんが。私に電話するくらいならお付き合いしている方に電話したほうが」
「そんな相手いないよ。仕事ばかりで、誰かと会っている暇もない」
「樹里さんも言っていましたね。副社長は忙しいから全然会えないって」
「だから、たまには仕事じゃない話をする人がほしいんだ。高山さんも、暇な時間とか眠れない日とかに連絡ちょうだい」

　眠れない日か、そんなの毎日になってしまう。

「そういう日があれば」と返した。

　副社長は「ああ」と言って、それからは仕事の話が中心になった。
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