ブーケ・リハーサル
【4】秘書の仕事
 秘書の仕事を始め一か月が経った。手探りの部分は多いが、秘書という仕事に少しは慣れてきた。

「高山さん、一緒に来てください」

 田中さんがイスから立ち上りながら、そう言った。

「はい」

 私は田中さんの後に続き、副社長室へと入った。

「急で悪いんだが、明日、Psyche(プシュケ)の社長に会うのだが、高山さんにも同席してほしい。プシュケは知ってる?」
「はい。二十代から三十代向けの婦人服を扱っている会社ですよね。私も何着か持っています」
「それは助かった。その日はプシュケの服を着てくれ」
「分かりました」
「高山さんには社長の奥様の話し相手になってほしい。奥様はフランス人で、英語は完璧らしんだが、日本語はまだ不慣れらしい。結婚して二年目で、日本に住んで半年。少し日本での生活に疲れているようなんだ。母国語が使えるだけでも気分転換になるかもしれない。奥様とできるだけ打ち解けてほしいんだ」
「分かりました」

 田中さんからプシュケに関する資料をもらい、副社長室を出た。席に戻り、もらった資料をめくると中には企画書が入っていた。

 プシュケとのコラボ商品の企画を通したいらしい。ただ、プシュケはコラボ商品を日本では出したことがない。過去に何度かコラボ商品の企画を提案した日本企業はあったらしいが、どこも断られている。
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