ブーケ・リハーサル
 Psyche(プシュケ)はアメリカのブランドで、世界的に人気のあるブランドだ。この社名は、ギリシャ神話に出てくる愛の神に愛された美少女の名前から取っている。女性は皆、美しい少女から女性へと変化する。その変化をもたらすのが愛。だから世の女性は皆プシュケである。美しい女性に美しい服をという理由からこのブランド名になったらしい。

 プシュケはヨーロッパでは香水やジュエリーといったものとコラボをしている。社長の興味を引くような企画でないと難しいらしい。

 つまり、社長のみを落としにかかるより、奥さんの力も借りたほうが成功率も上がるということか。

 フランス語を話せる人間を採用するということは、この企画に副社長は力を入れている、ということになる。責任重大じゃないか。



 プシュケの社長とは日本料亭で会うことになっている。

 料亭に向かうため、初めて副社長専用の車に乗った。田中さんが運転席で、私が助手席に座った。

 車はセダンには変わりないが、全体的に高級感が漂っている。車種に詳しくないため、グレードがどのくらいのものかとは分からないが、たぶん高級車だろう。

「高山さん」

 後部座席に座る副社長のほうに首を少し傾けた。

「話が長くなるだろうから、食事が済んだあと頃合いを見計らって、奥様を庭園へ案内してほしい。今から行く料亭は庭園内を歩くことができるから」
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