ブーケ・リハーサル
【5】ナイト・フレーバー
 適当にテレビを見ながら、ぼーっとしているとスマホが鳴る。

「もしもし」
『今、いい?』

 電話の向こうから副社長の声が耳元に届いた。これで今日もぐっすり眠れそうだ。

「はい、大丈夫ですよ」
『今日はお疲れ様』
「いえ、副社長もお疲れ様です」

 私が間違い電話をしてから一か月が経つ。その間に三回、副社長から電話があった。その日は毎回地上波で映画が放送されている日だった。

 映画を観ながら、その映画の話をする。まるで高校生みたいだった。ホラー映画なら幽霊が突然現れたら同時に叫んで、ミステリーなら犯人を一緒に推理した。

『ねえ、映画観てる?』

 副社長は必ず、こう聞いてくる。

「はい。ナイト・フレーバーがやってますよね」

 この映画はいわゆるサクセスストーリーだ。貧しい女の子がピアニストの夢を叶える話で、途中ラブストーリーも挟んでいる。有り勝ちな話だけど、それなりに面白い。

『俺、この映画、映画館で観たんだよ』
「デートですか?」
『いや、失恋のショックで』
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