ブーケ・リハーサル
『そこは気にしないでいいから。面倒ならこんなこと自分から言わないよ。じゃあ、日曜日に。時間はまた連絡するから』
「え! 副社長!」

 電話は一方的に切れてしまった。今日は水曜日。明日、明後日の副社長の予定を思い出す。

 副社長、会社にほとんど来ない。これじゃ、断るタイミングがない。仮にこっちから電話しても、時間と待ち合わせ場所を指定されて、電話を切られてしまう気がする。

 どうしよう。秘書のドレス選びをする副社長がどこにいる。あり得ない。

 テレビを見れば、主人公が演奏会に着るドレスを恋人に選んでもらっているシーンが映し出されている。

 ドレスを何着も体の前に合わせ、主人公をじっと見つめる恋人。そしてドレスを決め、最後に靴を選ぶ。ワインレッドの靴を恋人が自ら主人公に履かせる。その光景をうっとりと主人公は見つめた。

 こんなこと、副社長に、あのイケメンにしてもらうなんて無理。それにどんなドレスを着たって、私なんて大して代わり映えしない。あ、休日だから私服を見せることになる。仕事ではスーツだけど。なにを着ればいいんだ。

 結局、いろいろと考えてしまい寝付けず、時報を聞く羽目となった。



 来てほしくない日というのは、あっという間にやってくる。木曜日も金曜日も副社長には会えず、日曜日に待ち合わせ場所と時間を知らせるメールが来た。もう、断ることはできなかった。
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