ブーケ・リハーサル
 下ろしていた髪の毛を両手で束ね、首周りを露にする。繊細で細いチェーンが首に触れた。

「いいよ」

 髪を元に戻し、副社長のほうを向いた。

「うん。すごくいい。似合ってるよ。鏡、見てごらん」

 横にあった姿見を見ると、いつもの自分じゃないように思えた。

「どう? 自分で見た感想は?」

 副社長が鏡越しに見つめてくる。

「自分じゃないみたい」
「すみません。これでお会計を」
「あの、ふ、浩紀さん、お会計って」
「これでパーティーに行こうね」

 副社長の言葉に店員さんも「素敵ですね」と言って、私が身に付けているネックレスを外し始めた。

 あれよあれよという間に、お会計が済み、買ったものは大きな紙袋に入れられ、副社長が持っている。

「あの、こんなに高いもの経費では落ちませんよね」
「細かいことは気にしなくていいよ」
「いや、気になりますよ」
「これは必要経費だから」
「だから、経費じゃ落ちないですよね」
「いいから、いいから」
「ここ数日でふくしゃ、浩紀さんのイメージが変わりました」

 私が副社長と言いそうになると、鋭い視線が飛んできた。プシュケの店内で間違えなかっただけ、褒めてほしいくらいだ。
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