ブーケ・リハーサル
【6】幸せのブーケ
 あの後、私は副社長から逃げるようにして帰ってきた。

 部屋に付くと、涙が出そうだった。なにやってるんだろう。あんなことしたって意味ないのに。副社長も結構悪い人だな。私はもっと悪いけど。うまく否定することだってできたのに、恋人のフリを副社長にさせてしまった。

 真っ暗な部屋。電気のスイッチを押した。

 あれ、点かない。蛍光灯、切れたのかな?

 明かりを確保するために、キッチンのライトのスイッチを押した。ここも点かない。お風呂場も同じように点かない。ブレーカーが落ちているのかと思えば、ブレーカーに異常はない。

 どうなってるの?

 懐中電灯で明かりを確保したときだった。部屋のドアを叩く音がした。ドアスコープを除くと大家さんがいた。急いでドアを開ける。

「あの、電気が点かないんですけど」
「ごめんなさい。実は上の階の人なんだけど、お風呂場の水が溢れちゃって、それが元で漏電したみたいなんです。明日修理の人を呼びますから。部屋のブレーカーを下ろしておいてください」

 大家さんは深々と頭を下げて帰っていた。言われた通りブレーカーを下ろして、真っ暗な部屋に一人座った。

 電気が使えないなら食事もできない。ビジネスホテルにでも行くか。

 ボストンバッグに荷物と貴重品を詰め、部屋を出た。駅に向かってノロノロと歩く。
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